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『死と向き合う言葉-先賢たちの死生観に学ぶ-』(KKベストセラーズ:呉智英・加藤博子 1595円)〜本好きのリビドー/悦楽の1冊

『死と向き合う言葉-先賢たちの死生観に学ぶ-』(KKベストセラーズ:呉智英・加藤博子 1595円)〜本好きのリビドー/悦楽の1冊  
『死と向き合う言葉-先賢たちの死生観に学ぶ-』(KKベストセラーズ:呉智英・加藤博子 1595円)〜本好きのリビドー/悦楽の1冊 

小説『博士の愛した数式』の主人公のように、数そのものに美を見いだしたり、詩を感じ取れる数学者ならいざ知らず、気がつけば一生活者の身には、日常のどこかで必ず数字を意識せざるを得ない現状が、ふと疎ましくなる瞬間は多々ある。

猫も杓子もツイッターだ、インスタグラムだ(あの〝インフルエンサー〟なる肩書の胡散臭さといったら。風邪じゃあるまいし、一体いつから蔓延した表現なのか)、ユーチューブだののフォロワーを増やすことばかりに血道を上げ、ほぼその多寡だけを物差しに偉そうに他者を見下す群れの鬱陶しさよ。電車内の広告は大抵が〝賢い副業で月に30万〟とか〝寝ながら資産を倍に〟とのたまう本で、ひたすら稼ぐのみが奨励され、揚げ句は、いまや「人生100年」が当たり前の時代だなどと勝手に煽っておいて、そのくせ安心な老後を迎えるには最低でも2000万必要、とくる。被害者めいた口調は避けたいが、実感としてつくづくうんざりだ。

誰にもやがて否応なく訪れる“その時”に向けて…

長寿大いに結構なれど、あくまでそれ自体が目的であり、価値ある点ではないはず。富裕層ももちろん、なれるものならなるに越したことはなかろうが、金持ちであること自体に意味と意義がある訳じゃない。どう使い、何に費やすかで贅沢という言葉の真贋が問われ、人物の軽重が測られたと思うのだが…と、こんな御託はとても素面じゃ並べられぬと弁えてきたつもりだが、どうやら昨今の御時世、それも怪しくなってきた。

誰にもやがて否応なく訪れる〝その時〟に向けて、多くの文学作品や学術書を素材に率直に語り合う著者2人から、さながら空手や太極拳の教室で平易に構えをマスターするがごとく、思想と姿勢が整う本書。生き辛いのでなく、死に辛い世の需要を満たすだろう。

(居島一平/芸人)