文豪・谷崎潤一郎といえば、耽美的な作風で知られる。その作品は数多く映画化され、女優たちのエロチックな姿をスクリーン上に映し出してきた。中でも『卍』はこれまで4回映画化され、レズビアン映画の定番となっている。
一番有名なのは、若尾文子と岸田今日子が主演した64年の大映作品だが、残念ながら2人のヌードは吹き替え。ここでは、樋口可南子と高瀬春奈のヌードがたっぷり拝める、83年の東映作品を取り上げよう。
人妻の高瀬が万引きをする場面を、OLの樋口に目撃されてしまい、それが縁でいつしか2人はただならぬ関係となる。まず、スリップから片方だけを丸出しにした樋口を見て、高瀬が「かわいい」とつぶやく。それを聞いて樋口は、「吸うてみる?」と関西弁で言い返す。恐る恐る高瀬が口に含めると、すでに感じ始めている樋口は、目を閉じて、顔を後ろの方にそらせる――。
とまあ、御両人は出し惜しみすることなく、体を張って頑張っている。細身の樋口と太目の高瀬のコントラストが絶妙で、どちらが好みでも楽しめること請け合いだ。
「かつて樋口は、『ひたすらノーマルから外れたいというだけで女優になったんです』と語っているが、それを証明するような演技ぶり。高瀬の方は両刀遣いなんだけど、そのつらさを体でもってよく表していた。2人を選んだキャスティングの勝利ですね」(映画雑誌編集者)
ありそうでなかなかない美の競演
川端康成作品も数多く映画化されているが、その中にはレズビアンを扱ったものもある。『眠れる美女』と『美しさと哀しみと』だ。
両作品とも何度か映画化されているが、今回は川端自身が一番見事に映画化された作品だと明言した、65年の『美しさと哀しみと』(松竹)を取り上げたい。
八千草薫扮する女流画家と彼女を慕う弟子・加賀まりことの同性愛を、美しい京都や鎌倉を背景にして描いたもの。2人が深い仲になっていくのには、女流画家を貶めた作家の男が大きく関わっている。
加賀はそれを知って、男に復讐を誓う。自作の絵を持って男の家を訪ね、体を求めてきた男に左胸を触られると、「嫌よ、嫌。左は乳が出ないから」と言い、彼の息子にはその逆を言って翻弄する。
息子との絡みでは、上半身裸の手ブラまで披露するほどだ。加賀から男との一夜を聞いた八千草は、なぜか嫉妬心にかられ、加賀との同性愛に溺れていく――。
「お姫様女優の八千草と小悪魔女優の加賀という、好対照の2人が絡むのがミソ。こういう美の競演は、ありそうでなかなかない。古都の風景が官能に溶け込んでいるのも魅力的だ。自分の持ち味を遺憾なく発揮できた加賀が、このフィルムを買い込んで大事にしているのもよく分かる」(映画ライター・若月祐二氏)
~Part3に続く~
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