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日本は発展途上国に転落した~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 (C)週刊実話Web

緊急事態宣言の解除以降、日本の新型コロナ感染症は明らかに第4波に向けて進んでいる。今後、ワクチン接種が順調な英米が感染収束に向かう中で、大幅に遅れている日本は年内いっぱい感染拡大が続きそうだ。

オックスフォード大学の『データで見る私たちの世界』というサイトによると、3月31日現在のワクチン接種率は、イギリス52.5%、アメリカ44.5%、ドイツ16.2%に対して、日本はわずか0.8%だ。ちなみに中国は8.2%、韓国は1.7%で、日本は0.5%のフィリピンとほぼ並んでいる。

なぜ、こんなことになってしまったのか。最大の原因は、官僚の保身だと私は考えている。日本政府が承認したワクチンは今のところファイザー社製だけで、アストラゼネカ社製のワクチンは国内生産が始まってはいるものの、承認がないので接種できないのだ。

かつての官僚は、給料がとても安かった。だから、クビになることを恐れなかった。クビになっても民間に転ずれば、逆に給料が上がったからだ。彼らの仕事の動機は、国を動かすことであり、思いを込めた政策を打ち出すことができた。

ところが、大企業の賃金水準に合わせる巧妙な仕組みのもとで、いまや官僚の待遇は格段によくなった。しかも、最近は官邸主導が強まり、自由に政策を打ち出せなくなった。

厚生労働省は、何度も薬害による集団訴訟を起こされているから、厚労官僚は自分を守るため、慎重の上にも慎重を期したワクチン承認を目指す。その結果、感染が広がって国民が命を落としても、「正しい」審査を進めた官僚の地位は安泰なのだ。

物価が安いから暮らせる…まさに発展途上国の姿

日本の発展途上国化は、ワクチンだけではない。OECD(経済協力開発機構)が発表している年収ランキングでも、日本は30カ国中24位で、19位の韓国を下回っている。20年前まで、日本の賃金水準はG7トップだった。それがなぜG7最下位に転落したのか。最大の理由は産業政策の失敗である。既存産業にこだわり、日本が生み出す付加価値が増えないから賃金が上がらないのだ。

例えば、世界を支配してきた日本の家電産業は、もはや見る影もない。政府が音頭を取って、日立や東芝、ソニーの小型ディスプレイ部門を統合して誕生したジャパンディスプレイは、青息吐息の状況。日の丸液晶を守りたいという、財界と官僚の既得権へのこだわりが招いた結果だ。

一方、世界で進むデジタルトランスフォーメーションや、それを支える情報機器の分野でも、決定的に出遅れている。いまや国産のスマホやPCを使っている国民は、少数派になってしまった。利権にならない新しい分野への支援を怠ったからだ。

低賃金は、低物価をもたらす。例えば、比較しやすい「ビッグマック」の価格は、アメリカの3分の2だ。国民の賃金は上がらないが、物価が安いので何とか暮らせる。それはまさに発展途上国の姿だ。

このまま何も変わらなければ、日本人は海外旅行や留学に行けなくなり、日本の不動産は海外に買い占められる。そして、多くの国民が外資系企業で、低賃金で働かざるを得なくなるだろう。そんな時代になっても、大企業のエリートに処遇を合わせる官僚だけは守られるのだ。

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