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レポート『コロナと性風俗』第5回「横浜・若葉町」~ノンフィクション作家・八木澤高明

(画像)Tatchai Mongkolthong / Shutterstock

「コロナなんてぜんぜん関係ないわよ。普段と変わらずにぎわっているわ」

かつて500軒あったともいわれるちょんの間に、多くの外国人娼婦がいたことで知られている横浜・黄金町。そこから川を挟んだところに、ラブホテルが建ち並ぶ若葉町がある。ちょんの間に娼婦たちの姿はないが、若葉町には以前から外国人の立ちんぼがいることで知られている。


果たして、このコロナ禍でも立ちんぼたちの姿があるのかと思い訪ねてみた。すると、立ちんぼたちの姿があり、そのうちの1人はコロナ前も今も、何も変わらないと言ったのだった。

私が話を聞いた娼婦は、ハルミと名のる、日系ブラジル人である。彼女はニューハーフで、20年近く前から若葉町で立ちんぼをしているという。

「今も夜9時をすぎれば、ニューハーフとかタイ人の女とかが来るわ。金曜日がいちばん多くて、20人はいるんじゃないかな」

2000年代初頭、若葉町の娼婦たちは、ニューハーフもいたが、そのほとんどがコロンビア人とタイ人の女性たちだった。黄金町が05年に摘発されると、観光ビザで来日し、体を売っていたタイやコロンビアの女性たちのほとんどは、若葉町から消えた。女性たちに変わって現れたのが、韓国人や日系ブラジル人のニューハーフたちだった。

韓国人に関しては、日韓両国の間には相互ビザ免除協定があって90日間は滞在できることから、出稼ぎ感覚で体を売っていた。日系ブラジル人たちは、もともとは親戚を頼って来日し、工場などで働き、より多くの稼ぎを求めて体を売るようになった女が多かった。

街に立つよりバーの方が大変…

ハルミは日系三世。和歌山出身の祖父母がブラジルに渡ったそうだ。日系人といえば、食い詰めて海を渡ったというイメージがあるが、聞くと、ハルミの祖父は一風変わった人物だった。

「おじいちゃんは、ブラジルに土地を買いに行ったんだって。サンパウロからちょっと離れた場所で、かなり買い占めて、後から土地が値上がりして大金持ちになったの。だけど、ブラジルのきれいな女に狂っちゃって、全部使っちゃったみたい。それで、土地を全部手放して、お父さんはすごく苦労したの。私も、お父さんを助けるために来日したのよ。おじいちゃんさえまともだったら、ブラジルで優雅に暮らせたの。日本になんか来なかったわ」

来日したハルミは東海地方の自動車工場で働き、もっと稼ぎたいと思ってニューハーフバーに移ったという。そして体を売るようになったが、ニューハーフバーが廃れると、今から20年ほど前から東京・新大久保の路上に立った。

「あの頃は、コロンビア人が多かったでしょ。あの子たちはどこが稼げるかよく知ってて、黄金町のことを教えてくれたわ。それで若葉町に来たのよ」

ハルミは体を売る以外にも、バーで働いている。

「街に立つより、バーの方が大変ね。コロナ前はママに『毎日来て』と言われていたけど、コロナが流行りだしてからは週に3日ぐらいしか行かなくなった。お客さんが来ない時もあって、暇になったのよ」

ハルミが働いてるバーにも足を運んでみた。ママは同じく日系のブラジル人ニューハーフで、時短の要請などにも従っていないという。ママにも話を聞いた。

コロナなど“どこ吹く風”の街

「8時でお店を閉めたら誰が来るのよ? そんなの、守っていられないでしょう。小さいお店だから、時短してお金をもらったほうが儲かるけど、それをやってしまうと今までのお客さんが来なくなっちゃうわよ。店を辞めようと思うのなら、要請に従ってお金をもらった方がいいけど、今後も商売を続ける人は、お客さんが少なくなっても開けていたほうがいいわね」

バーのママは、町の様子についても、ハルミと同じようなことを言った。

「他の飲み屋さんが、みんな閉まっているし、どこも行くところがない男がニューハーフを買いに行くみたい。増えているよ。みんな家でじっとしていられないのよ」

若葉町には、今も数軒のタイレストランがある。もともとは黄金町で働くタイ人娼婦たちが主な客だったが、彼女たちが去ったあとは、日本人と結婚し日本に暮らすタイ人女性たちが主な客となっている。

20年以上前から営業しているタイレストランで、オーナーのタイ人に最近の様子を聞いてみた。店内では、タイ人女性とその家族が食事を楽しんでいた。

「おかげさまで、うちは影響ないですね。もともといつも来てくれている人が中心なので、皆さん、変わらず来てくれているんですよ」

コロナの影響を受けている飲食店というのは、オフィス街など、都心の飲食店なのだろう。常連客を相手にしている郊外の店には、影響が少ないようだった。

私が若葉町を訪ねたのは日曜日で、天気も雨模様だった。夜の10時をすぎて、立ちんぼたちが現れる通りに足を運んでみると、雨の中に10人ほどの立ちんぼの姿があった。彼女たちを目当てにした男たちもいて、私の目の前で2組の男女がホテルに入っていった。

立ちんぼたちの町には、コロナなど、どこ吹く風のようである。

八木澤高明(やぎさわ・たかあき)
神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。

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Tatchai Mongkolthong / Shutterstock

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