新型コロナウイルス感染拡大の影響で、葬儀をめぐる環境が激変している。というのも、昨年から続く新型コロナの感染状況は、年をまたいでも依然として収束の気配がない。熊本県や青森県では今年1月、葬儀や葬祭会食に参加したグループで相次ぎクラスターが発生し、通常の葬儀を行う難しさが改めて浮き彫りにされた格好だ。
そのため、一部の葬儀会社は「3密」防止策として新しい形態を取り入れ、この難局を乗り切るために苦慮している。一方、コロナ以前から兆候が見られていた「葬儀の縮小化」や「簡素化」が、さらに加速する傾向が強まり、葬儀に関連する業界は大きな変革を求められている。
大手紙の経済担当記者が、コロナ禍で進む新しい形の葬祭について解説する。
「まずは最近、マスコミでも多く取り上げられている『オンライン葬儀』(リモート葬儀)です。タレントの薬丸裕英さんが、今年3月、オンライン葬儀に参列して親友の死を悼んだことが報じられていました。このことからもオンライン葬儀が、徐々に浸透してきていることが分かります」
オンライン葬儀とは文字通り、式場に参列者が多く集まることでの感染拡大を回避するため、各自がパソコンやスマートフォン、タブレット端末などを利用して、遠隔地から葬儀に参列する方法だ。
葬儀会社により形態は少しずつ異なるものの、一般的には故人のメモリアル画像や動画を閲覧し、故人の家族が参列するリアル会場からの葬儀にオンラインで参列する。記帳や香典の受付にも対応可能で、付帯サービスとして訃報の配信、供花や弔電の依頼ができる葬儀会社もある。
3密を避けられるドライブスルー焼香
また、このオンライン葬儀とともに増えているのが、「ドライブスルー焼香」だ。葬儀会社の関係者が明かす。
「参列者は車を降りることなく、順番に受け付け台の前に停車して窓を開ける。すると係員が記帳書を差し出すので、氏名、住所を記して香典を渡す。そして、香典返しを受け、次に香炉を載せたお盆を渡されて、お焼香をする。この一連の動作をすべて車の中で済ませるのです」
最後にドライバーは窓を閉め、その場を去れば無事参列が終了となる。ドライブスルーと言えば、郊外にあるファストフード店が定番だったが、焼香の場合もほぼ同様だ。
「実は、このドライブスルー方式の焼香は、2017年に長野県の葬儀会社が考え出したものだ。当時、地域住民の高齢化が進む中、足腰が弱って葬儀参列が困難な人が増えつつあった。その人たちが故人と最後のお別れができるよう、いい方法はないかと思案した末に導入したという」(同)
ドライブスルー焼香はウィズコロナの時代に、密を避けられる新しい葬儀形態として注目を集め、取り入れる葬儀会社が続出している。そして、このコロナ禍でさらに進んでいるのが、葬儀の縮小化と簡素化だ。
最近、親の葬儀を済ませた介護関係者Aさん(都内在住)が、こう明かす。
「長年、商売をしていた父が、昨年秋に84歳で亡くなりました。以前は父が亡くなった場合を想定し、遠方の親戚や商売の関係者など、70~80人規模の葬儀をするつもりでした。しかし、急きょ予定を変更し、兄弟3人と連れ合いの7人で通夜、告別式を省き、直葬のみで済ませました。当然、一周忌も行いません」
ついにロボット僧侶も登場
直葬とは通夜、告別式を行わず、納棺後すぐに火葬する葬儀のことで、火葬式とも呼ばれる。直葬の理由はコロナで密を避けたことが1つ。もう1つはコスト節約だ。檀家の僧侶を呼ぶと読経、戒名、四十九日法要で約200万円かかるそうだ。
「父が生前に『葬儀は簡素でいい』と言っていたのも直葬にした理由です」(同)
このAさん方のように、最近は葬儀を簡素化する家族が珍しくない。前出の葬儀関係者が、その背景を経済産業省が発表した「特定サービス産業動態統計」をもとに解説する。
「2020年12月における葬儀業界の売上高は478億2000万円で、対前年同月比マイナス15.1%の落ち込みです。売上高が減少傾向にあるのは、葬儀が縮小化され、家族葬、直葬が増えている証拠です」
実際、ある大手葬儀関連会社が昨年に実施したアンケート調査では、驚くべき結果が出ているという。
「かつては少数だった直葬が、一般的な葬儀を望む人を上回り、53%に達したという統計もあります」(同)
葬儀の簡素化に拍車がかかり、最近は周辺産業にも影響が出始めた。各社とも生き残りに必死だ。
「ロボット僧侶による読経や墓を持たない供養など、多様化も進んでいる。コロナ禍が収まっても業界は変革の波にさらされるでしょう。つまり、葬儀に関連する会社は合併などで体力をつけ、新たな方法を模索するしかないのです」(同)
2019年の年間死者数は約138万人だが、2040年には年間で167万人が亡くなる時代に突入する。しかしながら、葬儀会社の前途はけして平易ではない。
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