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『プロ野球toto』始動!“9回延長なし”の裏にコロナで球団の財政悪化…

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今年のプロ野球を面白くしているのが、同点でも9回で試合終了という新ルールだ。新型コロナウイルス感染拡大によるイベント開催時間の時短が目的だが、真の狙いは「プロ野球toto」実施の布石だという。スポーツ議連が今国会中に「○●△3択方式」の改正案提出を目指す――。

巨人の新守護神・中川皓太が9回に2点リードを守れず、エース菅野智之の勝ち星が消滅したDeNAとの開幕戦。その裏、今度は亀井善行がプロ野球史上初の開幕戦での代打サヨナラ本塁打を放つなど、今年のプロ野球は終盤でどんでん返しが目に付く。波乱を演出しているのが、「完全9回制」の新ルールである。

新型コロナウイルス感染対策というのが表向きの目的だが、実は各球団オーナーが温めてきた重要案件という。球界首脳が「狙いはもう1つ、別のところにある」と本誌に明かす。

「スポーツ振興くじ(toto)の対象にプロ野球を加える準備の一環です。昨年も国会でtoto法の改正案が審議されましたが、12月に可決成立したのはバスケットボール・Bリーグの追加だけで、プロ野球は見送られました。12球団しかないため勝敗だけでは6つの選択肢しかなく、さらに引き分けも滅多にないことなどから、議員立法を目指す超党派のスポーツ議員連盟から見直しを求められたからです。延長戦が長引いてその1試合の結果で当せんが決まるとなると、過去の海外サッカーにおいては当該試合の選手が襲われたり、八百長の温床にもつながるケースがあったといわれる。その点、9回で終了ならドローとなり、ほぼ同時に試合が終了します。当せん決定に混乱が生じないのです」

“二塁塁審カメラ”導入の理由

サッカーtotoがファンに親しまれ、世界中で人気が高いのは、90分で各試合が終了する方式にある。購入者は勝ち負けと同じ比重で引き分けを予想するため、0対0のゲームでも最後まで盛り上がるのだ。

プロ野球も、9回打ち切りなら世界標準に近づく。「完全9回制」を視野に、「延長は10回まで」という特例ルールで行われた昨季、巨人が延長試合で1敗8分だったことで、下位球団が「9回制支持」に雪崩を打ったという。

また、試合がテレビ放送時間内に終われば、地上波復活の追い風にもなり、番組中にtotoの当選が決まることで視聴率が上がり、CMスポンサーも戻る。インターネット放送DAZNの契約者も増え、各球団の契約金アップにもつながる。

横浜DeNAなどは、本拠地球場のナイターの開始時刻を45分前倒しし、toto実施に向けた実証実験を始めているという。

「日本テレビが今季から野球中継初となる『二塁塁審カメラ』を導入しましたが、これには視聴率アップとともに正確な判定を担保する狙いがあります。toto参入には警察の理解が必要で、全審判にカメラ装着を求める案も検討されているのです。ミスジャッジや八百長防止に備える必要があるからです」(文科省職員)

従来のプロ野球toto案は、サッカーのBIGのようにコンピューターがランダムに選んだ試合の勝敗を決める「非予想型」だった。しかし、9回制が導入されればファンが望む勝敗引き分けを自分で予想するスタイルに変更が可能と期待する。また、1位から6位までの順位を当てる「リーグ優勝toto」も検討されており、これならシーズンを通して楽しめる。

衝撃的なプロ野球球団の財政悪化

totoはもともと、配当は売り上げの半分で、残り半分は「スポーツ振興を含めた寄付」に充ててきた。年間売り上げは約1000億円前後で推移してきたが、昨年はコロナの影響でJリーグ及び海外サッカーの開催延期の影響で激減。これに伴い、助成を受けていた各競技団体への影響も懸念され、売り上げ回復にプロ野球totoを期待する声が強まっているのだ。

当のプロ野球とて他人事ではない。衝撃的なのが、堅実な経営で各球団が手本としてきた広島の財政悪化。

昨年の決算で、46年ぶりに約29億円の赤字。コロナ禍で本拠地での公式戦が前年の71試合から60試合に減少。さらに無観客や上限定員制限で入場者数が前年の222万3619人から53万7857人と約71%も減少したのが響いた。

「チケットの収入減は、全球団とも約7割。集客力が高い巨人や阪神、ソフトバンクはより影響が大きく、50億円規模に赤字が膨らんでいる。今季は1都3県の球団が上限1万人で開幕し、4月19日以降50%に緩和される方向だが、夏に東京オリンピックが控えており、それまで制限が続く公算が高い。ゆえに各球団とも入場料収入に頼らない財源確保に躍起になっており、行き着いたのがtotoというわけだ」(在京の球団幹部)

スポーツ議連は5月上旬までに日本野球機構(NPB)や日本プロ野球選手会などの関連団体と協議し、今国会中に議員立法で改正案提出を目指している。今夏の東京五輪は、外国人観光客の受け入れを断念したものの、聖火リレーがスタートするなど、スポーツ振興の機運は高まっている。

東日本大震災から10年目の節目。ヤンキースから田中将大が戻った楽天、スーパールーキー佐藤輝明が加入し6年ぶりの開幕3連勝を飾った阪神など、今季は王者ソフトバンク、巨人を脅かす強力なライバルが出現した。プロ野球toto参入で、より盛り上がるのは間違いない。
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