第一生命が、昨年12月に小中高生を対象として行った「大人になったらなりたいもの」というアンケート調査の結果を発表した。毎年行われている調査だが、今回の最大の特徴は「会社員」がいきなりトップに躍り出たことだ。
小学生女子のみ会社員は4位だったが、男子は小中高生すべてでトップ、女子も中高生ではトップだった。子供がなりたい職業と言えば、スポーツ選手や学校の先生、パティシエ、学者、鉄道の運転士といったものが定番だった。
これまでのランキングを見ても、近年でも会社員がランキングに登場することはなかったが、それが突然トップになったのだから、原因はコロナ感染の拡大以外に考えられない。第一生命のレポートでは、「コロナ禍で在宅勤務が広がり、親の働く姿を身近で見るようになったこと」が原因だとしているが、そんな「美しい」理由なのだろうか。
子供は大人が思う以上に、世の中を冷静に見ている。コロナの被害は、立場の弱い人に集中した。昨年の11月に行われた「新型コロナウイルスと雇用・暮らしに関するNHK・JILPT共同調査」によると、解雇や雇い止めにあった正社員は、全体の1.1%にとどまっている。非正社員の場合は3.5%だから、相対的に正社員の雇用は守られたのだ。
ちなみに解雇や雇い止めにあった女性の割合は2.1%で、男性の2倍である。小学生女子の人気ランキングで会社員が1位にならなかったのは、女性の雇用が不安定だからかもしれない。
やりたい夢を考えない社会は危険…
一方、この調査では収入についても聞いている。収入が3割以上減った人の割合は、正社員の場合は男性が3.4%、女性が3.8%とあまり大きくないのに対して、非正社員の場合は男性12.4、女性11.4と、比率が3倍になっている。コロナ禍という戦後最大の経済危機のなかでも、正社員の生活はほとんど揺るがなかったのだ。
一方、コロナで本当にひどい目にあったのは、この調査の外に置かれているフリーランスの人たちだ。音楽家、舞台役者、お笑い芸人、マジシャンなど、パフォーマンスで収入を得ていた人たちは、収入半減どころではない被害を受けている。そうした人たちの多くが、昨年の特別定額給付金と持続化給付金を食いつぶして生活を続けてきたが、新規の給付金がないために、生活はすでに追い詰められている。
また、若者の立場からすれば、憧れの職業自体が遠のいていることは事実だ。例えば、キャビンアテンダントの場合、経営が悪化している航空会社が相次いで新卒採用を停止している。鉄道事業者も2022年度の採用はJR東日本が半減、JR西日本は4分の1という状況だ。こうした世の中を見ていたら、子供たちが「憧れの職業を選ぶよりも、とりあえず正社員として入社しておけば安心だ」と考えても何の不思議もない。
ただ、子供たちまでが暮らしの安定を優先して、やりたい夢を考えない社会は発展しないだろう。第一生命の調査で、小学生男子が一番幸せを感じるのは、1位が「ゲームをしているとき」、2位が「家族といるとき」、3位が「おいしいものを食べているとき」だ。家族とおいしいものを食べてゲームをするのが幸せ、そんな「一億総保身」は、日本経済転落への道だ。
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