
――二度の緊急事態宣言は必要だったのでしょうか?
藤井 まったく不要でした。「欧米でロックダウンをやっているから、日本もアレと似たようなことをしないといけない」という思い込みが、政界にも世論にも浸透してしまった。しかし、欧米と日本では死者数、感染者数が全然違います。欧米なら緊急事態宣言しないレベル。実際、日本とほぼ同様の感染者数である中国、韓国、台湾は、日本のような厳しい行動規制を取っていません。
ただ、日本の医療資源は先進国中トップクラスなのに、コロナ対応病床だけでいうと、欧米の10分の1しかない。これは政府が病床確保のためにお金をケチったこと、そして、日本医師会が前向きに協力しなかったことが原因です。緊急事態宣言を出したのは、医療崩壊への怖れからですが、政権が病床を増やせば医療崩壊リスクもなく、緊急事態宣言も必要なかった。
つまり、安倍晋三政権と菅義偉政権は、自らが病床を増やす努力をしなかったツケを、国民に自粛や時短させることで払わせようとしたわけです。言い換えるなら、本来やる必要のない自粛や時短という自らの自由を奪われ、収入を激減させる対策を国民は押し付けられた。極めて不条理、理不尽な対応です。
――安倍前総理は昨年の今頃、緊急事態宣言や自粛要請を出すことに、前向きではありませんでした。
藤井 緊急事態宣言なんかやると、経済がめちゃくちゃ冷え込みますから、基本的にやりたくないわけですよ。私の印象からすると、財務省の圧力があるので、官邸はできるだけ財政政策に頼らず、国債を発行しないで経済を何とか持たせたいと考えていたはずです。しかし、これは自民党政権官邸の伝統的な思考パターンでもある。
宣言発出で一番大きな役割を担ったのはテレビであり、その存在としては北海道大学の西浦博教授です。「対策をとらないと42万人死亡」とか「人との接触8割減」などと騒ぎ立てたことが、かなり官邸に影響を与えましたね。
それと、もう一つ重要なのは小池百合子都知事です。小池さんも散々に煽りまくりましたし、とくに二度目の宣言の延長、再延長など本当にひどかった。再延長に至る過程では小池さんが暴走し、神奈川の黒岩祐治知事をだましていたことまで報道されました。
国民の健康より利益が優先
――コロナ対応病床を確保するために、政府は日本医師会に対して、もっと強く要請すべきでは?
藤井 日本医師会とて利益団体ですから、コロナ病床を増やすことが業界の利益になると判断すれば、反対しないはずです。なぜ利益にならなかったかというと、政府が緊縮予算でケチったから。十分なお金を用意しなかったことが最大の問題です。
それに、厚生労働省が中心になって、コロナ対応病院と対応しない病院、あるいはコロナ重症者病院と軽症者病院など、きちっと仕切るべきでした。そのうえで患者をA病院からB病院に移すとか、病院が損をしないようにすればよかった。お金を用意してきちんとやれば、コロナ対応病床なんて瞬く間に2~3倍になったはずです。
新型コロナは指定感染症として「2類以上の取り扱い」になっており、病院側はコロナ患者を引き受けてしまうと、多大なコストがかかるし、そのコストを政府がきちんと補償しない。お金を出さない政府、努力しない厚労省、その構造の中で利益団体は拒否するということ。それぞれの立場が自分の利益を最大化した結果、そのしわ寄せがすべて国民に来ているという構造です。
――安倍前総理は辞任直前、指定感染症レベルを引き下げると言っていました。
藤井 私も期待していましたが、菅政権になってうやむやになってしまった。取り扱いレベルは2類と5類の間にすべきですが、今は1類と2類の間ですからね。厚労省が反対していたという見解が一般的です。
省内の医系技官たちは2類相当のままで続けてくれと。おそらくは医師会からの反発もあったのでしょう。そんなことしたら、一般病院にコロナ患者が入ってきて、風評被害で商売できなくなるという医療関係者の反発も考えられます。
いずれにしても国民の健康を守るという見解ではなくて、自分たちの利益のために1類~2類のまま保持されているという残念な状況が続いています。
――新型コロナ収束後の日本経済立て直しの処方箋を教えてください。
藤井 第1に、財政規律を凍結すること。第2に、それに基づいて諸外国と同様、消費税減税あるいは凍結すること。これで国民の消費が活性化します。そして第3に、法人の売り上げ損失、世帯所得の損失を補填することです。この3つは欧米各国がやっていることで、これらの対策をやればV字回復できます。
しかし、基本的に行政は予算の裏付けがあって展開しているので、財務省が原理的にすべての政策を阻止する力を持っています。いわば財務省は各省庁を自由にさせない「手綱」を握っているようなもので、各省庁がやろうとするいろんな行政が、あまり進んでいかないように逐一ストップをかけられる。
これが日本における政治の真実の姿です。そこをジャーナリストも言論人たちも理解していなくて、政治家もその構図が見えていない。財務省の悪影響というものを著しく過小評価しています。
財務省がお金を出さない限り、日本経済の復活は絶望的です。しばらくはデフレ脱却も絶対無理。今、コロナで三度も大型補正予算を組んだ財務省にしてみれば、「これだけ金を出してやったんだから、これからちゃんと増税して返せよな」という気持ちでしょう。しかし、実際は、ちゃんとお金を出していないし、用意したのは大企業に流れるお金だけです。
優先順位を間違えた菅政権
――今年10月に衆院議員は任期満了を迎えるので、それまでに総選挙が行われます。菅政権への評価と今年の政局についてお話しください。
藤井 コロナ禍なのに社会保障負担を増額し、子ども手当の減額もやっている。3次補正予算も規模だけは大きく見えますが、庶民の暮らしのための出費ではなく、大企業優遇の項目ばかりです。菅政権はデジタル庁を創設したり、温暖化対策を打ち出したりしていますが、優先順位を完全に間違えている。コロナ、不況、対中対策が日本における喫緊の課題で、携帯電話の料金引き下げなんかはまったく些細な話です。
外交は、中国に対する弱腰が明らかになりました。昨年、王毅外相が訪日して尖閣問題で一方的な言い分を主張したのに対し、茂木敏充外相は十分な反論をしなかった。とにかく、ひどいです。
解散総選挙は政権支持率のタイミング次第です。下がれば、党内で菅おろしが始まり、そうでなければ、ダラダラ続く可能性もあるでしょう。菅総理は大派閥のリーダーではないのですが、バックに二階俊博幹事長が付いてなんとかやってこれた。だから二階さんが見限れば、菅政権は終わります。総選挙は何らかの風が吹かない限り、自民党が大敗することはなく、ある程度は勝つでしょう。自公連立政権は維持されます。
――菅政権への評価がかなり厳しいのですが、次の首相候補は誰ですか?
藤井 誰でもいいんじゃないですか、河野太郎さん以外だったら(笑)。よく首相候補として名前が挙がる石破茂さん、岸田文雄さん、野田聖子さんでもいいですよ。その3人だったら菅政権よりマシですね。
石破さんは地方を大事にするだろうし、財務省と戦おうとする気持ちが幾分あるでしょう。岸田さんは財務省と戦う気持ちがやや弱そうですが、それでもある程度はやろうとするでしょう。しかも、中小企業保護、日本産業保護という意思を明確に持っています。野田さんも場合によっては、積極財政に転じる可能性があると思います。
河野さんには何のメリットも想像できない。地方を潰すだろうし、中小企業も潰すでしょう。財務省と戦うこともまずないですね。
――自民党の人材は枯渇していますね。
藤井 だから、真っ当な保守政党だった古い自民党に戻ればいいんです。日本国民や国家を守ろうとする自民党が、いつか復活することを心から祈念しています。それを実現するには、また野党が勝って、自民党に反省してもらう以外に、僕は道を見いだすことができません。
(構成/横山渉)
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