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『あの夏の正解』著者:早見和真~話題の1冊☆著者インタビュー

『あの夏の正解』新潮社/本体価格1400円
『あの夏の正解』新潮社/本体価格1400円 Ⓒ新潮社

『あの夏の正解』新潮社/本体価格1400円

早見和真(はやみ・かずまさ)
1977年神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』で作家デビュー。15年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞を受賞。20年『ザ・ロイヤルファミリー』でJRA賞馬事文化賞と山本周五郎賞を受賞。

――本書は愛媛新聞で連載されていた高校野球ルポをまとめたノンフィクションです。取材したきっかけはなんだったのですか?

早見 新型コロナウイルスが日常に入り込んできたとき、デビューして12年目にして初めて小説を書く手が止まりました。自分にとって大切な何かが今にも消え去りそうな予感があって、でも、その大切な何かが想像もできない中、「甲子園」という何よりも大切な物を失おうとしている高校生と出会いました。

小説を書く手を止めてでも、彼らに向き合う必要性があると感じたのがきっかけです。

――コロナ禍で球児たちはどのように野球に向き合っていたのでしょうか?

早見 僕自身、神奈川県の桐蔭学園で野球をやっていました。たくさんの記者からインタビューを受けましたが、一度たりとも「自分の気持ち」を口にしたことはありません。大人の喜ぶであろうことばかり答えていたと思います。そういう経験をしてきた僕が、今回、記者の立場で現役の球児たちと向き合いました。決して本音を言わない彼らからどう本心を導き出そうとしたのか、その点は間違いなく読みどころの一つだと思います。

“彼らの夏”を知ってほしい

――早見さんが高校球児の時、阪神大震災が発生しました。このときも選抜の開催が懸念されましたね。

早見 自分がこれほどまでに「甲子園」に憧れていたのかということを突きつけられました。うそか本当か他球場での代替開催という案が耳に入ってきたのですが、そのとき感じたのは、自分が苦しい練習に耐えてきたのはひとえに「甲子園」のためだったということです。「高校野球の全国大会」を目指したことは一度もありませんでした。「みなさんにとっては毎年のことかもしれませんが、僕らには一生に一度のことなんです」と心底思っていたのを覚えています。

――高校野球には〝恨み〟があったといいます。現役の高校球児を取材して、今の気持ちはどうですか?

早見 あの頃、あんなに恋い焦がれた野球は、結局、僕を幸せにしてはくれませんでした。それどころか思い出さえも振り返りたくないものが多いです。「恨み」とはそういうことから来た言葉で、それが完全に晴れたのかは分かりません。

この本に登場するのは何よりも大切と思っていたものを奪われながら、それでもやり切るしかなかった高校生たちです。僕自身が読み返して「これ、面白いかも」と思えました。大人にとってヒントがあります。彼らの夏を知ってほしいと思っています。

(聞き手/程原ケン)

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