エンタメ

LiLiCo☆肉食シネマ~『ノマドランド』/3月26日(金)より全国公開

Ⓒ2020 20th Century Studios. All rights reserved.

『ノマドランド』
監督/クロエ・ジャオ
出演/フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、スワンキー、ボブ・ウェルズ
配給/ウォルト・ディズニー・ジャパン

まだ春先ではありますが、自分にとって今年のベスト10に残る1本だと確信しています。この『ノマドランド』は、働いていた企業の閉鎖など、様々な理由でノマドとしての生活を選ばざるを得なかった人たちを描いた本当の話。2008年に起きたアメリカの経済危機は記憶に新しく、多くの現役労働者だけでなく、リタイア世代にも大きな影響が出ました。これは、あまり語られてない部分なので、いろんな辛い気持ちが押し寄せ、心が揺さぶられます。特に驚きなのは、本当のノマドのみなさんが出演していること。エンドロールに出てくる役名と本人の名前が同じことを知り、強い衝撃が走りました。

主演は『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンド。名前を聞いてピンと来なくても、顔を見たら絶対に分かります。それほど、記憶に残る名演技をいつも〝魅せて〟くれる俳優。もちろん、今回も最高です。

彼女は旅をし、いろんな人たちに出会います。でも、これは生きるために必要な出会い。そう、本作は人生についての映画。自分が何を〝人生の喜び〟と思うかを考えさせられます。

もっと近くに幸せがいっぱいあるはず

その中でも、この作品に出てくるスワンキーという女性の言葉に胸打たれました。ノマドとして生きてきた彼女は、余命を知らされると「自分の人生の素晴らしい思い出にヘラジカの家族も見たし…」と、動物と会えたことへの喜びを振り返りました。私は、それで、よい人生だったと言える彼女に涙が止まらなくなったのと同時に、〝自分はいったい、何に必死になっていつも突っ走ってるのか?〟と思わされたのです。

もっと近くに幸せがいっぱいあるはずなのに、その先の大きなものにばかり、大きな口を開けてがっついている現実。例えば、会社の社長なら自分の会社を大きくしたい、芸能人ならとにかく売れてお金持ちになりたい、もちろん、それもいいのだけど、スワンキーの素直さに感動したのです。

脚本や演技が素晴らしい、メッセージが深いという理由のほか、私がこの映画に深く入り込んだ理由の1つに、自分も5年間、マネジャーと車中生活を送っていたことがあげられます。その日に車を停める場所を探したり、車がイタズラされないか心配で眠れなかったり、食べる物を手に入れられるのかなど、毎日、不安なことばかり。

マクドーマンド演じるファーンも色々な人と出会い、そして悩んだ末に選んだ生活とは? やりたいこともできない今の世の中だからこそ見ておきたい傑作です。

LiLiCo
映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。

あわせて読みたい