女優/川瀬佐知子インタビュー〜地下アイドルが女王様に!?
昨年11月に生誕50周年を迎えた日活ロマンポルノ。シニア層の中には当時の「成人映画」へのノスタルジーが強い人もいるに違いない。その日活が記念プロジェクトとして「ロマンポルノ・ナウ」を企画。今秋3本の新作映画を公開した。
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川瀬知佐子は第2弾となる『愛してる!』(白石晃士監督)のヒロイン。映画初主演の新進女優ながら、SMの世界に身を投じる地下アイドルを演じている。私生活でも地下アイドルの経験があるという彼女に、出演秘話を聞いた。
――ロマンポルノといえば1970年代に最初の黄金期を迎えたレーベルで、当時の映倫規定による成人映画です。そもそも20代の女性はロマンポルノの存在自体を知らなかったのでは?
川瀬 実は…知っていました。10年くらい前、中学生のときに映画の裏方とか監督を目指していて、映画雑誌のバックナンバーにその活字を見つけたんです。作品を見たことはなかったのですが、「大人って都合のいいものを作るなぁ」というのが正直な感想でした。
――都合のいいもの?
川瀬 ロマンとポルノをくっつけて「芸術です」と言い張ってる、みたいな(笑)。幼かった私としては、そういう解釈だったんです。
――映画監督を目指していた少女が、なぜロマンポルノに出ることに?
川瀬 すべてはコロナがきっかけかもしれません。アメリカの大学で映画を学ぶための留学が決まっていたのですが、そのタイミングでコロナが流行り、渡米ビザが下りなくなってしまったんです。そのため昨年、本当にしたいことを考え、フリーランスで女優デビューしました。でも、なかなかオーディションに受からず、自分のあらゆる面をアピールできる地下アイドルのオーディションを受けたら合格したんです。4人組で、担当カラーは赤。偶然ですが、この映画の中でミサが演じる地下アイドルも真っ赤な衣装を着ているんですよ。
父親が“考える人”みたいに固まった
――主役を射止めたオーディションではどんなアピールをした?川瀬 それまでは「自分をよく見せよう」と頑張りすぎていたので、何もアピールしないようにしました。フルオープンになることにはあまり抵抗も覚悟みたいなものもなくて、本音を言えば「オーディションに慣れておこう」くらいの気持ちだったんです(笑)。
――合格の報を聞いてご両親の反応は? 世代的にはロマンポルノをよく知っていると思いますが…。
川瀬 最初はZoomで伝えたんですけど、父はロダンの彫刻「考える人」みたいになっていました。Zoomがフリーズしたのか、ただ固まっているだけなのか分からなくて(笑)。しばらく考えた後、ようやく「そんなにやる気があるんだったら…」と納得してくれました。
――撮影が始まって、実際にフルオープンになるシーンはどうでした?
川瀬 率直な感想を言うと「人間はなぜ服を着ているんだろう!?」でした。ファッションとしての服は好きなんですけど、脱いでみて特別何かが変わったということもなくて。人として大切なのは服を着ているか、いないかじゃないんだなと。着飾ることは好きなんですけど、それでも繕えないものが世の中にはあると悟りました。
――なんだか哲学的。ミサは女王様を目指す過程でM女体験もしますが、役作りで苦労したことは?
川瀬 手先があまり器用ではないので、縛りのシーンが不安でした。それで、実際のSMバーに行って女王様の話を聞いたり、どんな人がこの世界に入っていくのかなどを勉強しました。
『Sって世話焼きのことなんだなぁ』
――ご自身はSかMか、と聞かれたら?川瀬 その質問、私生活でもよくされますけど、答えられませんでした。人間てそんなにハッキリと分けられなくない? と思ってしまうので。ただ、女王様役をやって気づいたのは、Mの方との間には信頼関係がないと成り立たないということ。縛る、言葉責めをする、時には放置する…というのもありますが、私には面倒で無理(笑)。相手を思いやる気持ち、ケアする気持ちがないとできないと感じました。Sって、世話焼きのことなんだなぁと思うんです。
――初主演作の企画、監修は髙嶋政宏さん。髙嶋さんといえば著書『変態紳士』がきっかけでSM好きをカミングアウトしたことでも話題になりました。共演してみてどうでしたか?
川瀬 ミサという主人公を演じる私が、SMラウンジ「H」というお店に入ると、髙嶋さんがご本人役で常連客としていらっしゃるんです。知り合いの女王様とかもいっぱいいらしたみたいで、カメラが回っていないときもとても楽しそうにしていらっしゃいました。映画で見せた姿そのままなのですが、卑猥なオーラを出さずに楽し気に話されていました。
――例えばどんな?
川瀬 「どこどこに痴女のインストラクターがいてね…」なんていう調子です。あまりに普通に話されるので、私が言うのも生意気なんですけど、気持ちがすごく若い方なんだなぁと思いました。
ナチュラルな声に太鼓判!
――髙嶋さんに対しては、下腹部と股間を思い切り踏みつけるシーンもありました。また、川瀬さんの調教される演技に関しては髙嶋さんが舞台挨拶で「声のナチュラルさ…研究したんだな」と太鼓判を押していました。それを聞いてどうでした?川瀬 素直にうれしかったです。実は、実際に声を出しているM女さんを見て研究しました。でも、これは私の声ではないなと思い、見るのはやめてあまり考えないようにしました。自然に出た声が一番いいんじゃないかと。実際、私を調教するカノン役の鳥之海凪紗さんと対面するまでは何も分からない…というのが正しいと思ったので、素直な反応を出そうと心がけました。
――ミサにSMの素養を見出す「ある人物」はラウンジのオーナーで、ryuchellさんが演じていたわけですが、いかにも怪しいキャラでした(笑)。
川瀬 YouTubeをよく見ていたので、共演できると知ったときには驚いたしうれしかったです。雰囲気や仕草がとってもかわいいんですよ。撮影初日のものすごく緊張しているときに気さくに話しかけてくださって、色々とアドバイスもしていただいたんです。
――それはどんな?
川瀬 「芸能界にはいろんなタイプの人がいるけど、惑わされずに自分らしくやっていったらいいよ」って。仕事をする上で自分を見失いかけたり、言ったこと、やったことが正しいのか迷ったり悩んだりするんですけど、「私は私のままでいい」と言ってくださったようで得心しました。
――最後に、映画が公開されて周囲の反応はどうでしたか?
川瀬 母は、父ほどではないにしても「娘のそういうのは見たくないなぁ。親戚には言えない」と話していたのですが、上京して映画館で見た後は、親戚中に言いふらしてます(笑)。田舎の同級生も「ミサ☆ザ・キラー(劇中の地下アイドルの名前)のファンになった」とか「2回見た」と連絡をくれたり。引かれちゃうんじゃないかと心配したこともありますが、そういう反応がうれしいですね。
◆かわせちさこ 1999年9月10日生まれ。山形県出身。2021年女優デビュー。現在は地下アイドルグループを卒業して映画を中心に活動している。『愛してる!』は全国順次公開中。
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