森永卓郎 (C)週刊実話Web
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森永卓郎が警告!日本経済を沈没から救うには「1円でも安い店で買う」!?

ケンタッキー・フライド・チキンが、5月29日からランチタイム限定でセットメニュー16品を一律で40円値下げした。


値下げの理由は、昨年秋に2割の値上げをして以降、客足が落ち込んだからだ。


特に今年4月の既存店客数は、前年同月比19%減と値上げ分が吹き飛ぶ不調だった。


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値上げを繰り返してきたリンガーハットの客数も5%減と不調の一方で、主力商品のミラノ風ドリアを税込み300円という低価格で据え置いたサイゼリヤは、18%という大幅増となった。


値上げを重ねたマクドナルドは3%増と好調を維持しているが、アプリクーポンを使ってハンバーガーのハッピーセットを買えば400円と価格は据え置きだ。


「値上げをすれば、客足が落ちる」という競争原理がようやく復活してきたのだ。


この1年ほど、日本では「値上げは正しい。消費者はそれを受け入れるべき」という奇妙な風潮が広がっていた。


岸田内閣が打ち出した「賃上げを実現するためには価格転嫁が必要」という論説にメディアが乗っかったからだ。


風を感じた企業は、生産性向上で価格を抑制する努力を怠り、「みんなで上げれば怖くない」と一斉値上げに走った。


それが物価高の大きな要因となったのだ。

実質賃金の減少は今後も継続…?

それでは、消費者が負担した値上げ分は、どこに行ったのか。

この点に関して5月23日の朝日新聞が興味深い記事を掲載している。


「GDPデフレーター」というGDP全体の物価を示す指標がある。


国内で作られた付加価値(賃金+利益)の物価なので、輸入原材料の値上がりの影響を受けない純粋に国内要因だけの物価だ。


このGDPデフレーターは、昨年度4.1%上昇した。ところが、そのうち賃金に回ったのは0.3%に過ぎなかった。賃金の寄与率はたった7%に過ぎないのだ。


逆に言えば、値上がり分の93%は広い意味での企業利益の拡大に回されたことになる。


岸田政権が掲げた「物価と賃金の好循環」が絵に描いた餅であることが改めて立証されたのだ。


この事実を前提とすれば、政府が賃上げの旗を振るという「所得政策」が完全な失敗だったことは明らかだし、すでに24カ月続いている実質賃金の減少が継続することは確実なのだ。


そのなかで消費者の手取り収入を増やし、日本経済を失速から救うための政策は、もはや消費税減税しか残されていない。


総選挙が近づくなかで、野党は消費税減税に向けた政策調整を急ぐべきだろう。


そして消費者は「1円でも安い店で買う」という態度で企業と対峙すべきだ。


「原材料費が高騰するなかで値上げはやむを得ない」と理解を示しても、値上げ分は企業利益の拡大に持っていかれてしまうからだ。


ただ、価格に厳しい目を向けるという消費行動は、それほど難しいことではないと私は思う。


それは、日本の消費者が戦後ずっと続けてきた消費態度であるからだし、賃金が上がらないなかで、そうした消費態度を取らなければ、生活そのものが成り立たなくなってきているからだ。


さらに、一番変化が求められるのは、マスメディアだ。


値上げをする企業を非難することは難しいかもしれないが、少なくとも工夫や努力を積み重ねて値上げを回避したり、値下げをする企業、安くて良いものを提供する企業を称賛する方向に論調を変えるべきだ。


それが日本経済を沈没から救う一助になるのだ。