(c)Pilgrimage Films Limited and The British Film Institute 2022 
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やくみつる注目!人生の宿題にカタをつける老人ロードムービー『ハロルド・フライのまさかの旅立ち』

監督:へティ・マクドナルド 出演:ジム・ブロードベント、ペネロープ・ウィルトン、リンダ・バセットほか 配給:松竹 ※6月7日(金)新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開


「英国のお年寄りが一念発起し、ある目的のために800キロの道を歩き始める」という設定で思い起こしたのが、1999年、淡島千景主演のロードムービー『故郷』です。


沖縄から生まれ故郷の北海道までマラソンおばあさんがひた走り、その道中で出会う人々との悲喜こもごもが描かれた映画でした。


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シチュエーションは似ていますが、主人公の描き方、周りの人々との関係性、絵の作り方でこんなにも見た後の味わいが異なるものかと思いました。


さて、自分は本作の方により心が揺さぶられたのはなぜなのか。勤めていたビール工場を定年退職し、平凡な生活を送る主人公ハロルド・フライと自分が近しいからだけじゃありません。


ガソリンスタンドのお姉ちゃんの言葉で彼がふと思い立ち、着の身着のままで「人生、これだけはちゃんとしたい」宿題にカタをつけるために旅に出る。しかも徒歩で。


原作の小説が『ハロルド・フライの思いもよらない巡礼の旅』と、「巡礼」という言葉が使われているように、なぜ1人で、しかも歩きでなければならなかったのかが次第に明らかになってきます。


本作では、ロードムービーにありがちなわちゃわちゃした展開や大げさな事件は描かれず、道中に出会う人々との関わり合い方もいい感じであっさり。彼の人生の後悔を鎮める「英国本土縦走の旅」が、まるで彼の心象風景のように写し取られていくだけなんです。

まさかのシンクロ! 老人ロードムービー

で、ですね。全くの偶然なのですが、これを書いている今の自分も「まさかの旅立ち」の真っ最中です。

2017年に亡くなった自分の母の趣味が油絵でした。50号の大作他1枚、手元に残っていたのですが、自分ら夫婦には子供がないから引き継ぐ先がありません。


そこで、思いついたのが亡母の母校への寄贈です。2020年当時の校長先生に相談しましたら、快諾いただきました。


というわけで、東京から秋田県の北東部にある鹿角市の公立高校まで自分の軽自動車で届ける一人旅に出ています。


あえて高速も国道4号線も使わないと決めたのも、本作と似ていると言えなくもない。


道中でふと目についた立て看板に誘われ寄り道したら珍しい事象に次々と遭遇したりと、鈍行の旅は実に面白い。


例えば、「青猿神社」という名前に惹かれて立ち寄ったら、120年に一度咲くと言われる「黒竹の花」を見ることができました。


こんな1人ロードムービーをどこかの局で番組にしてくれたら…なんて妄想したりして楽しんでおります。
やくみつる 漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。