「6月解散断念」岸田首相が総裁再選に向け必死の“延命工作”
「麻生さんは『この際、通常国会の会期を9月まで100日延長したらどうか』と言っています。『国会が終われば、そのまま総裁選に出ればいい。俺は岸田を支持する』ということです」
5月20日朝の首相公邸。岸田文雄首相は、定例の打ち合わせに訪れた側近の木原誠二自民党幹事長代理の話を黙って聞いていた。
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事情を知る政府関係者によると、麻生太郎副総裁は政治資金規正法改正案について、公明党との与党案を作成できなかった以上、「立憲民主党など野党との合意も困難」と指摘。
6月23日までの会期を大幅延長し、「不退転の覚悟を示すべき」と周囲に漏らしているという。
木原氏は、こうした麻生氏の考えを首相に説明。2015年に安倍晋三首相(当時)が9月下旬まで会期を延長し、安全保障法制を成立させたことを引き合いに出したとも伝わっている。
ちなみに、規正法改正をめぐる与党協議に、自民党から責任者として出席していたのは麻生派の鈴木馨祐衆院議員で、協議の状況を逐一、麻生氏に報告していた。
麻生氏はその内容も踏まえ、公明党の態度が固いことから、この局面は大幅延長しかないと判断したようだ。
確かに大局を見極めれば、この麻生氏の考えには一理ある。
規正法改正案は公明党の拒絶で自民党の単独提出となったため、衆院を通過できたとしても過半数の議席を持たない参院での成立は困難だからだ。
しかも、首相は「今国会で成立させる」と事あるごとに発言しており、実現できなければ世論の強い批判を浴び、支持率の一層の低下すら招きかねない。
そのため「会期延長して、もう一度公明党と落としどころを探るしかない」(自民党関係者)とみる向きも少なくないのである。
また、麻生氏は規正法改正に加え、総裁選後の衆院解散・総選挙を見据え、大規模経済対策を打ち出すべきだとも木原氏を通じて首相に伝えたという。
24年度補正予算案の処理も見越しての大幅延長というわけだ。
首相が「全国情勢調査は不要」と指示
だが、こうした麻生氏の考えに異を唱えているのが、首相に近いベテラン議員や、麻生氏と距離を置く国対を中心とした党幹部ら。21年総裁選で岸田首相陣営の選対本部長を務めた遠藤利明元五輪相や、岸田派事務総長だった根本匠元厚生労働相は、5月中旬に相次いで官邸で首相と面会。
田村憲久元厚労相も秘かに公邸で首相と面会したというが、その際に会期の大幅延長論に疑問を呈し、延長せず閉会した方がいいと具申したとされる。
岸田派関係者がこう語る。
「麻生氏は、首相が6月解散を諦めていないと疑っている。これだけの強い逆風下で解散すれば自民党が大敗し、下野する可能性も十分あるが、延長すれば当面解散は阻止できる。そのため、遠藤氏らは麻生氏が首相に延長を促しているに過ぎないとみているのです」
さらに、反対派議員らは「延長したところで野党に見せ場を与えるだけで、政権支持率は落ちる」とも考えているようだ。
「となれば、麻生氏は総裁選に腹心の茂木敏充幹事長か上川陽子外相を推すはずで、こんな見え透いた手に乗るわけにはいかないというわけです」(前出・岸田派関係者ー)
一方、自民党国対幹部も麻生氏への反発を強めているという。
国対関係者によれば、浜田靖一国対委員長と御法川信英委員長代理は、規正法改正案を会期内に処理し、延長せずに閉幕する方針を変えていないからだ。
「改正案は、延長したところで立派なものにはならない。罰則強化のための連座制導入や、収支報告書をチェックする第三者機関の設置は議論が煮詰まらず、今国会では中途半端なものにしかまとまらない。ならば、さっさと手じまいするのが常識だ」(自民党関係者)
気になるのは、こうした大幅延長否定派が、今後の岸田及び自民党政権を維持するのに、どんな青写真を描いているのかという点だ。
「最後は公明党と歩み寄る。公明党は6月解散に反対なのだから、首相がどこかの段階で同党の山口那津男代表に『解散しない』と伝えれば済むはず。実際、首相はすでに自民党本部に『全国情勢調査は不要』と指示している。解散するつもりがないからだ。公明党は解散しないと確信すれば、調整の余地が必ず出てくる」(同)
また、別の自民党ベテラン議員もこう続ける。
「自民党の法案と公明党の主張の違いは、パーティー券購入者の公表基準と、政党が党幹部に渡す政策活動費の使途公開方法の2点だけだ。自民党案採決の際に、付帯決議で『2年後の見直し』なり『段階的引き下げ』なりを確約すれば済む話で、場合によっては首相がサプライズとして公明党案を丸呑みしてもいい」
そうなれば自民党内の反発は必至だが、世論から一定の評価を得られるのは間違いない。
さらに言えば、政権奪取を狙う立憲民主党は「岸田首相で衆院選を戦いたい」(幹部)のが本音。自民党の国対は「首相を追い詰めたりせず、法案審議や採決には応じる」とみている。
裏では石破氏に幹事長を打診
実際、党内にはこうした展開を見越した動きも出始めている。この5月に宏池会のベテラン議員らが中心となって、首相の総裁選再選に向けた「事実上の選対本部」を発足させた。
メンバーは根本、遠藤、田村、木原各議員らで、政治ジャーナリストも加わって「すでに数回の会合を開き、今後の展望についても意見交換している」(同)という。
関係者によると、同会合では国会閉幕後、首相は得意の外交に注力し、7月7日投開票の東京都知事選を小池百合子知事に乗ってしのげば、支持率はその後30%台にまで回復すると分析しているようだ。
〝ポスト岸田〟に名前の挙がる茂木幹事長や石破茂元幹事長、高市早苗経済安全保障担当相らは、いずれも世論や党内の支持で一長一短があるため、岸田首相の勝機は十分にあるとの認識で一致している。
また、中には「4人、5人と出馬すれば、1回目の投票では誰も勝てない。下位連合を固めて国会議員だけの決選投票で勝とう」といった意見も出たといわれている。
大手紙政治部記者が言う。
「事実、〝ポスト岸田〟の動きは活発で、茂木氏は党内の中堅・若手との会合を重ね、石破氏は5月の勉強会に15人を招集。高市氏グループは近く安保政策の提言をまとめる方針だ」
また、上川氏は地元の静岡県知事選で何度もマイクを握り、野田聖子元総務相は人口減少の議連を結成。加藤勝信元官房長官や河野太郎デジタル相も出馬への意欲を隠していないことから、総裁選は大乱戦が予想されている。
「こうした動きを踏まえ、〝岸田選対〟の会合では『首相が出るなら上川は出ないはず』『2、3、4位連合を組むなら、高市と茂木になる』との見方が披露されたようです」(同)
ただ、肝心の岸田首相が今後のシナリオをどうするか、まだ腹を決めきれていない状況だ。
木原氏が5月20日に公邸で首相と面会したのは前述した通りだが、首相は木原氏に「そうだな」と漏らしただけで、具体的な判断を示さなかったといわれている。
岸田首相に近い政府関係者はこう語る。
「首相は早く国会を閉じたいと思っているが、規正法改正案の行方次第で小幅延長は仕方ないと考えているのではないか。ただ、最終的に野党が内閣不信任決議案を出しても、受けて立つことはせず、粛々と否決するよう党執行部に指示するだろう」
また、この関係者によれば、その後の展開は人事が鍵を握る可能性が高いという。
「首相は秘密裏に国会閉会後の人事刷新を模索しており、すでに閣僚の1人を通じて石破氏を幹事長に据える人事を打診したそうだ。感触は悪くないと聞いている」(同)
だが、〝ポスト岸田〟の最右翼でもある石破氏が、この政権浮揚の目くらましに乗るかは今のところ不明。
会期延長と人事を含め、岸田首相はこの難局打開にどう動くつもりなのか。
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