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「酒に決まってるだろ!」立川談志“舌禍騒動”のさなかに寄席へ出演すると…~物議を醸した『あの一言』大放言うらおもて~
今年4月、放送開始から半世紀以上になる国民的人気番組『笑点』(日本テレビ系)の新メンバーに立川晴の輔が加わり、立川一門のレギュラーは師匠である立川談志以来、およそ55年ぶりとなった。
談志は初代司会者を務めるとともに、番組の企画、構成にも深く関わり、名物コーナー「大喜利」のスタイルを確立したといわれる。
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しかし、ファミリー向けのお笑いを希望する日テレ側と、社会風刺やブラックユーモアを前面に出したい談志の間で意見が対立。1969年4月、局の意向に沿う形での大幅なメンバー交代がなされると、談志は司会者でありながら休演を繰り返すようになり、同年11月には衆議院選挙出馬を理由に番組を降板した。
『笑点』への思い入れは、のちに「俺の最高傑作」と語ったほど強く、それだけに降板は不本意なものだった。
談志はこれ以降、番組スポンサーだったサントリーの商品を飲まなかったという。
ともかく、そうして出馬した衆院選では落選となるが、71年6月に参院選の全国区でリベンジを果たす。
談志は50人中50位の最下位当選だったが、「寄席でも選挙でも真打は最後に上がるもんだ」とうそぶいた。
当選直後に自民党へ入党し、75年12月には三木武夫内閣で沖縄開発政務次官に就任する。だが、そこでいきなりトラブルを起こしてしまう。
76年1月、沖縄海洋博の視察に訪れた談志は明らかに二日酔いの状態で、これに怒った地元記者から「あなたは公務と酒とどちらが大切なんですか」と詰問されると、「酒に決まってるだろ!」とべらんめえ口調で切り捨てたのだ。
談志にしてみれば「仕事よりも酒が大事」なのは、人間の性質として当然ということなのだろうが、周囲はそれを許さなかった。
この件が問題視されて政務次官辞任に追い込まれると、処分を不服とした談志は自民党を離党。次回選挙の出馬も取りやめた。
この舌禍騒動のさなかに談志が寄席へ出演すると、満員の客席からは割れんばかりの拍手が送られた。落語ファンたちは政治家の松岡克由(談志の本名)よりも、噺家の立川談志を待ち望んでいたのだ。
しかし、そんな落語界においても、談志は大問題を起こす。落語協会の真打昇進試験をめぐって、当時の会長だった師匠の柳家小さんと対立したのだ。
試験の基準が不明瞭で、しかも弟子2人を不合格とされた談志は、83年6月に同会を脱会。弟子たちを引き連れて落語立川流を創設し、自ら家元を名乗った。
感性を最優先した生きざま
談志は名人上手とたたえられる一方で、普段の姿を知る弟子たちからは「ケチでカネに汚い」などと言われたりもした。舐めていたのど飴を吐き出し、楽屋に置いたまま高座に上がった際、弟子がそれを捨てると「バカ野郎、まだ舐められたのに」と怒鳴りつけたという。
自宅の家具もほとんどがもらいもので、戦後育ちならではの性分は生涯を通して変わらなかった。
弟子たちには家元への上納金を課し、これは従来の落語界にはなかった制度だが、談志は「弟子たちが精進するため」と言ってはばからなかった。
大学の落語研究会が学園祭などで出演を依頼すると、多くの噺家は〝学生価格〟で安く引き受けたものだが、談志は通常通りの高額出演料を要求した。
「親から仕送りをもらった上にアルバイトもしている大学生は、社会人よりもカネを持っているから」というのが談志の理屈で、現在はともかくバブル期の前後には確かにそういう面があった。
政治家時代の失言も含め、いずれも世間の常識にとらわれず、自身の感性を最優先した結果のことであったが、これにより談志はさまざまな軋轢を生むことにもなった。
98年12月、長野県飯田市での独演会では、居眠りをする客に怒って落語の途中で楽屋に引っ込み、その客を退席させた主催者が訴えられる騒動があった(裁判で訴えは退けられて、主催者側が勝訴)。
誰に対しても自我を貫いた談志だが、病気にだけは勝てなかった。
97年に食道がんを患い、食道を摘出。2008年に喉頭がんが発見された際には、「他人の悪口を言いすぎて、こうなっちゃった」と冗談めかしたが、思いのほか事態は深刻で、医者からは「声帯を摘出するしか完治の方法はない」と告げられた。
声帯を摘出すれば落語ができなくなることから、当初はこれを断固拒否する。だが、がんの進行は止まることがなく、11年に最期を迎えることとなった。
同年はイスラム過激派のウサマ・ビンラディン、リビアのカダフィ大佐、北朝鮮の金正日総書記らが亡くなったことから、談志の弟子たちは「今年は4人の独裁者が亡くなった」などと、洒落っ気まじりに偉大な師匠の死を悼んだのだった。
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