『うちの父が運転をやめません』垣谷美雨 
『うちの父が運転をやめません』垣谷美雨 

『うちの父が運転をやめません』著者:垣谷美雨~話題の1冊☆著者インタビュー

垣谷美雨(かきや・みう) 1959年、兵庫県生まれ。明治大学文学部卒。2005年、『竜巻ガール』で小説推理新人賞を受賞し小説家デビュー。結婚難、高齢化と介護、住宅の老朽化などの社会問題や、現実にあり得たかもしれない世界を題材にした小説で知られる。
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――高齢ドライバーの免許返納がテーマになっています。執筆のきっかけはなんだったのですか?


垣谷 編集者に提案されたことがきっかけです。日頃からテレビでも取り上げられていましたし、編集者から資料本を送っていただき、いろいろと調べていくと、行きつくところは高齢化社会であり、過疎地の問題であることが浮き彫りになってきましたので、これはぜひとも取り組むべき課題だと思いました。


――垣谷さんご自身は高齢ドライバーの運転についてどのように考えていらっしゃるのでしょうか?


垣谷 高齢ドライバーの運転だけに焦点を絞るならば、「危ないから○○歳以上の人は運転してはいけません」という法律を作れば済む話です。ですが、その裏に隠れた本当の問題を見過ごしてはならないと考えます。高齢ドライバーの問題は、老齢になって反射神経が鈍くなったとか、運転技術がどうのこうのというような小さな問題ではなく、今後の少子高齢化社会をどうやって維持していくのか、近未来のインフラはどうするのかといった話にも繋がるのです。

高齢社会の問題点を題材にした家族小説

――確かに昨今騒がれている地方の過疎化、買い物難民など社会問題にも切り込んでいますね。

垣谷 主人公の父が「運転をやめたら生活できん。死活問題じゃ」と言う場面がありますが、それが田舎で車を運転する多くの老人の思いであると思います。車は田舎で生きていくために必要であり、決して老人のわがままなどではありません。今後の少子化日本をどうやって維持していくのかを考える、きっかけになればと思います。


――誰もが年を取るということに改めて気付かされます。垣谷さんの考える理想の社会とは?


垣谷 誰一人として他人事ではないはずなのに、老人を異星人のように扱ってしまう「嫌老」の風潮があります。年齢以外でも、見た目だけでは分からない身体の不調や、さまざまな事情を抱えている人も想像以上に多いのではないかと思うことがあります。成熟した社会とは、他人に寛大でいられる社会を指すのではないでしょうか。大人が率先して弱者や困っている人に手を差し伸べ、その姿勢を子供たちに手本として示していかなければ、どんどん荒んだ社会になる気がしてなりません。本作は高齢ドライバーの現状を分析して訴えるだけでなく、それをきっかけにした家族の物語にもなっています。家族としてどのように手を差し伸べればいいのかを考える、きっかけになれば幸いです。


(聞き手/程原ケン)