森永卓郎 (C)週刊実話Web
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円安は止まらないのか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

4月29日の外国為替市場で、為替が1ドル=160円と、34年ぶりの円安となった。


円安は輸出企業に有利になる一方で、輸入品の値上がりで家計負担が増えたり、原材料を輸入に頼る中小企業の経営が厳しくなる。


円安の原因は、日本の国力の低下だという説も唱えられているが、そうではない。


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国力が強かろうが、弱かろうが、長期的には同じものが同じ価格で買えるように為替は調整される。


例えば、いま新品のブランド物バッグを買うと、日本は海外で買うのと比べて3割ほど割安になっている。


つまり、長期的には価格が均衡する1ドル=110円前後が適正レートということになる。


それではなぜ適正レートを超える円安が生じるのかと言えば、為替が投機の対象になっているからだ。


実際、外国為替取引の99%以上は、実需ではなく、FX(外国為替証拠金取引)などの投機取引だ。


マネーゲームが、行き過ぎた円安をもたらしているのだ。

過度な円安を是正する方法は…

行き過ぎた為替の変動は、経済に悪影響をもたらすため、政府は2度にわたって総額8兆円規模の介入を行った。

この介入で為替レートは10円近く円高に戻したが、介入には一時的な効果しかないといわれている。


外国為替特別会計が保有する現預金は24兆円ほどで、介入を続けるには限度があるからだ。


しかし、保有する米国債を含めれば、外貨準備は180兆円以上ある。


年金積立金が抱える外国証券を含めれば、300兆円以上というとてつもない外貨を日本政府は保有している。


なぜそれを使わないのか。理由は二つあるだろう。一つは、アメリカに忖度して、米国債を売りにくいこと。もう一つは、いま外貨資産を売りに出すと、莫大な為替差益が政府に転がり込んでくることだ。


おそらく、売れる外貨を全部売れば、100兆円を超える差益が転がり込んでくる。


そうなったら、そのカネを国民に還元しろという大合唱が起きるし、財務省が目指す増税・増負担シナリオが崩れてしまうのだ。


実は、過度な円安を是正する方法はまだある。産経新聞特別記者の田村秀男氏が提案している「リパトリ減税」だ。


日本のグローバル企業が海外で利益を出しても、その利益は海外での再投資に回されて、日本に還流してこない。


そこで、海外資産を本国に送金する企業の法人税を減税するという政策だ。


もともと米国のブッシュ政権が2005年に1年間に限って導入した「本国投資法」に基づいて行われた政策なのだが、それと同じことをすれば、莫大な資金が日本に還流し、それが円買い需要となって、円安を阻止できるのだ。


ただ、この施策も減税を嫌がる財務省のせいで、実現の目途は立っていない。だから、このまま行くとズルズルと再び円安が進んで、日銀が円を防衛するための利上げに踏み切る可能性が十分あるだろう。


しかし、それは最悪の選択だ。運転資金を借り入れに頼る中小企業が、利上げの負担に耐え切れずにバタバタと倒産したり、住宅ローンの支払いに行き詰まるサラリーマン世帯が続出するからだ。


ただ、もしかすると、岸田政権はそれを狙っているのかもしれない。「ゾンビ企業の淘汰」は、経済強者にとって資産を二束三文で買い集める最大のチャンスになるからだ。


すでに中小企業には、合併・買収をあっせんする業者のDMが殺到しているという。