
武藤(敬司)さんがプロレスリング・ノアのGHCヘビー級王者の潮崎豪選手に挑戦し、見事に勝利してチャンピオンになった。
武藤さんは今年59歳になるから、来年は還暦。定期的にリングに上がって試合をしているだけでも信じられないのに、ベルトまで取るなんてすごいことだよ。
この歳になってくると、いくら筋肉を鍛えても大きく成長はしないし、骨も弱ってくる。プロレスをするためのコンディションをキープするためには、若い頃よりも一層のトレーニングが必要になってくる。
武藤さんは〝天才〟と呼ばれるけど、実は努力家で昔から練習熱心。同じジムに通っているからたまに見かけるけど、今でもストイックにトレーニングをしている。俺は日焼けをしに行ってるだけだからな(笑)。
武藤さんはベルトを手土産に、ノアに正式入団も果たした。ノアが目指しているのは、業界ナンバーワンである新日本プロレスを超えることだろう。かつて新日本を飛び出した武藤さんが、現役チャンピオンとしてノアを引っ張っているのは面白い図式だ。武藤さんが新日本プロレスに在籍しつづけていれば、ライオンマークの継承者となったはず。猪木さんも、それを望んでいただろうからね。
しかし、その期待を重く感じて、新日本を出て行った。移籍した全日本プロレスでは、のちに武藤さんが社長を務めることになるのだが、実はそれが俺にとって不思議だった。社長になって責任を負うようなことを、武藤さんは回避するタイプだと思ってたからな。
ただ、武藤さんが全日本の社長時代に仕事で絡んだことがあったんだけど、部下を集めていろいろ指示していて「ちゃんと社長をやってるんだな」と思った。
船木誠勝選手にその話をしたら、「いや、何もやってませんでしたよ」と(笑)。詳細は俺のユーチューブチャンネルに上げた動画で話しているから、よかったら見てほしい。
大きな目標が体を鍛えるモチベーションになる!
とにかく、武藤さんは組織のトップには向いていない。選手としては天才だから、いまみたいに団体に所属しながら、好きなことをやるのが一番合っているんだと思う。
武藤さんはレジェンドレスラーを集めた「プロレスリング・マスターズ」という興行をプロデュースしていて、年1回ペースで開催していたんだけど、これもノアに持ち込もうとしているのかもしれない。
実は、マスターズを励みにしているベテランレスラーは多い。昭和時代から闘ってきたレスラーは、古傷でまともに生活ができないほどのダメージを負っているため、定期的にリングに上がるのは難しい。だけど、年に1回であればなんとか頑張れるし、今できる最高のプロレスを見せようと、マスターズに合わせて体づくりもする。
新型コロナの影響で、60代以降は人前に出ることを控えざるを得ない。家にこもって動かなくなっているから、余計に体調が悪化している。マスターズのリングに上がるという目標が、体を鍛えるモチベーションにもなっているんだよ。
武藤さんだって、武道館のメインでベルトを取るという大きな目標があったから、あそこまで体を仕上げられたし、今も輝いているんだと思う。
還暦目前でチャンピオンになった武藤さんには、俺も発奮させるものがあったし、同世代にも希望を与えたんじゃないかな。
蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。
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