森永卓郎 (C)週刊実話Web
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総合スーパーの時代は終わった~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

4月10日にセブン&アイ・ホールディングスが、傘下のイトーヨーカ堂などのスーパーマーケット事業を上場させる方針を示した。


「子会社化にはこだわらない」とも表明しており、上場後の株式売却によって、ヨーカ堂を事実上切り捨てる可能性が高い。


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布石はあった。今年2月、ヨーカ堂が、北海道と東北、信越にある全17店舗を閉店することが明らかになった。


3月には、川越、三郷、柏、綱島という首都圏郊外の4店舗の閉店が発表され、再来年2月までには33店舗の大量閉店が実施される。


スーパー事業上場のために、不採算店の閉店で利益を確保する戦略とみられる。


セブン&アイHDがヨーカ堂を見限る理由は、収益の悪化だ。セブン-イレブンが過去最高益を上げるなか、ヨーカ堂は赤字から脱却できない。


私は、地盤沈下は続くとみている。最大の理由は世帯構造の変化だ。食品のほかに衣料、化粧品、日用品、家電、飲食スペースなどを揃える総合スーパーの最大の顧客は、言うまでもなく主婦だ。


ところが、1980年と2022年を比べると、共稼ぎ世帯数が2.1倍、単独世帯が2.5倍に増えたのに対して、専業主婦世帯は2分の1になっている。


22年の実数でいうと、単独世帯1785万、共稼ぎ世帯1262万に対して、専業主婦世帯は539万にすぎない。すでに専業主婦は絶滅危惧種になっているのだ。


さらに、財務省の増税・増負担政策のせいで、国民負担率は80年の3割から5割に上がり、消費税負担も考慮すると、世帯主の手取りが減少する事態になった。


ひっ迫した家計を救うため、主婦は働きに出ざるを得なくなったのだ。働きに出ると、夫婦共に買い物時間が限られるようになる。


結果的に値段が高くても、近くにあって、24時間営業のコンビニに客足が流れるようになったのだ。

経営破たんしたダイエーが暗示?

総合スーパー地盤沈下のもう一つの理由は、地域間格差の拡大だ。

地方交付税の抑制で財政面での地方経済下支えが弱体化したうえ、金融資本主義のまん延で、地方で農産物や工業製品を作る人の所得が低迷する一方、大都市中心部でカネや情報を転がすだけで大きな富を得る人が増加した。


そうなると、郊外や地方に住む人は、低所得者が主流になり、食費以外にお金をかけられないようになってきたのだ。


私は都心から50キロほど離れた埼玉県所沢市の西部に住んでいるのだが、この1年で大型総合スーパーの西友とパルコが相次いで閉店した。


その一方で、賞味期限が短くなった食品などを激安で販売する食品スーパーが開店し、連日多くの買い物客を集めている。


地域間格差が最も鮮明に現れているのが、マンション価格だ。70平米程度の普通の中古マンションでも、都心だと1億円は下らない。


ところが、郊外だと数百万円、地方に行くと10万円単位ということもある。


もはや日本に中流はなくなり、夫が会社に行っている間に自由な時間を楽しめる主婦もいなくなった。


男女共同参画の名の下に、女性に与えられたのは、労働の強制と自由の喪失だったのだ。


そうしたなかで主婦のパラダイスだった総合スーパーが成り立つはずがない。ただ、それは20年前に経営破たんしたダイエーが暗示していたのかもしれない。


ダイエーの創業時のキャッチフレーズは、「主婦の店、ダイエー」だったからだ。