森永卓郎 (C)週刊実話Web
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口先だけの政府・日銀~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

3月28日、新年度予算成立を受けて岸田総理が会見し、デフレ脱却に関して「いまだ道半ばだ。抜け出すチャンスをつかみ取れるか、後戻りしてしまうか、これからの対応次第だ」と述べた。


私は、岸田総理の認識は正しいと思う。それどころか、むしろデフレに逆戻りする可能性が高まっているのではないか。


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4月からの食品の値上げは2800品目を超えた。電気料金は、5月請求分から再エネ負担金が引き上げられ、6月使用分からガスも含めた価格抑制の補助金が廃止されるため、標準家庭の電気・ガス料金の負担が月額1850円も増加する。


ここのところ落ち着いてきた物価が、再び高騰に向かい始めるのだ。まだ統計は出ていないが、大企業の正社員で実現した高い賃上げが、中小企業や非正社員に波及していないことは、ほぼ確実になっている。


にもかかわらず、岸田総理の打ち出す景気対策は、「成長と分配の好循環、賃金と物価の好循環」といった抽象論ばかりで、財政出動には一切触れていない。


そうしたなか、3月27日の外国為替市場で円相場が1ドル=152円と、34年ぶりの円安となった。


円安を放置すれば、ますます物価が高くなり、国民生活を圧迫する。ところが、政府も日銀も「過度な変動に関しては、あらゆる選択肢を用いて、断固たる措置を取る」と言うばかりで、介入などの動きに出ない。


いまの円安は明らかに異常だ。アメリカでは、ラーメン1杯が3000円、ドジャーススタジアム内で売られた築地銀だこは、6個で2100円だ。


為替は長期で見ると、必ず購買力平価に戻っていく。つまり、日米で同じものが同じ値段で買えるようになるのだ。


ところが、為替が購買力平価に戻るのには、放っておくと長い場合には十数年もかかる。だから投機を抑制し、本来の為替に戻す対策が必要になる。

“一石四鳥”の対策があるのになぜ…?

ここで考えないといけないのは、日本は当局がとてつもない外貨資産を持っているという事実だ。

外貨準備で1月末に1兆2918億ドル、年金積立金は昨年末で112兆2434億円、日本銀行が保有する外貨建て資産が、昨年11月末で10兆3261億円もある。


日銀保有の外貨は、一部外貨準備とダブルカウントになっているが、単純合計で312兆円もの外貨を日本の当局は保有しているのだ。


外貨取得時の平均為替は不明だが、仮に1ドル=100円だと仮定すると、現時点の為替差益が、107兆円も存在することになる。


つまり、当局が保有する外貨資産の3分の1を売却するだけで、消費税を1年間撤廃し、さらに6兆円のお釣りがくる勘定だ。


消費税を撤廃すれば、物価高対策になるだけでなく、国民の実質所得が高まるから、経済をデフレ脱却に向けて誘導することができる。


あぶく銭を使うだけだから、財政負担はなく、当然、増税の必要性も一切ない。為替も本来のレートに向けて動き出すだろう。


なぜ、一石三鳥、四鳥にもなるこうした対策が政府から出てこないのだろうか。


一部の経済評論家は、今回の円安を「日本経済が弱体化して、世界での日本の評価が下がっていることの証左だ」としている。


しかし為替は本来、購買力平価で決まるものだから、経済力とは関係ない。


政府や日銀が動かないのは、むしろ負け犬根性が蔓延しているからなのかもしれない。