自民党内乱!? 岸田派の“城下町”に二階派カチコミで全面抗争勃発か

「売られたケンカは受けて立つ!」

菅義偉首相を誕生させた立役者、自民党の二階俊博幹事長のドスの利いた声が響き渡ると、会場は一瞬で張りつめた空気に覆われた。

背後のひな壇には、二階派国会議員19人がズラリ鎮座、周囲を威圧した。これだけ二階派が勢揃いし、幹事長自ら冒頭のように物騒な「宣戦布告」をさく裂させたのは、二階派と岸田文雄前政調会長率いる岸田派間での派閥抗争があるからだ。山口戦争、幕末でいえば長州征討が勃発寸前なのだ。

全国紙政治部記者が解説する。

「二階幹事長の爆弾発言は10月4日、山口県宇部市のANAホテルで二階派の会長代行を務める河村建夫元官房長官の次期衆院選に向けての総決起大会が開かれた席です。二階幹事長ともども駆けつけた国会議員の顔ぶれは、現職閣僚の武田良太総務相、伊吹文明元衆院議長、鶴保庸介元沖縄・北方担当相、片山さつき元地方創生担当相ら閣僚級がゴロゴロいた。計20人の二階派国会議員が人口約16万人の宇部市にSPを伴い大挙して乗り込んだのだから、その話題で街中、持ちきりでした」

衆院議員の任期満了(2020年10月21日)となる1年以内には、必ず解散総選挙がある。とはいえ、まだ菅政権は誕生したばかりで、解散風は以前より収まっている。それなのに、こんな大騒動がなぜ起きているのか。

「出馬したければ無所属か他の政党に移ってもらう」

「岸田派の林芳正元防衛相が次の総選挙で参院から鞍替えし、河村氏の選挙区である山口3区からの出馬を固めたというTBS報道があったからです。河村氏は二階派大番頭。その重鎮が選挙で敗ければ、公認権を握る二階幹事長のメンツは丸潰れ。政治生命の終わりにつながりかねない。そのため林氏の鞍替えをどうしても阻止したい動きが今回の示威行動です」(同)

同日、二階幹事長の腹心である林幹雄幹事長代理は、こう恫喝した。

「自民党は現役優先で公認する。当然、公認は河村氏だ。それでも出馬したければ、無所属か他の政党に移ってもらう」

肝心の林氏は表向き「鞍替え」を否定しているものの、林陣営の地元幹部は鞍替えを前提にこう息巻く。

「芳正氏の父親、林義郎元大蔵相の中選挙区時代は旧1区の3区、4区が地盤。しかも、高祖父は貴族院議員、曾祖父は宇部興産創設者で、いわば3区は林家の城下町のようなもの。小選挙区制度施行時、義郎氏は安倍前首相や河村氏と自民同士でケンカするのを避け比例区に回った。以来、3区河村氏、4区安倍前首相と棲み分け、後を継いだ芳正氏は割を食う形で参院から出馬してきた。しかし、芳正氏も防衛相、農水相などの閣僚を務め、自民党総裁選にも出馬した。総理になるには衆院議員が慣例。芳正氏も来年還暦を迎え、そろそろ先祖返りで衆院から出馬し、日本の舵取りに参画して欲しいというのが地元の切実な声だ」

 林家の城下町に乗り込んできた二階派に対しての怒りは凄まじい。

「二階派が幹事長権限で公認を盾に邪魔するなら、芳正氏は無所属出馬の覚悟だ。河村氏とケンカなら芳正氏の圧勝だ。実際、春の美弥市長選挙は芳正氏が担いだ新人が河村氏の推した現職を破るなど、全区で林派が攻勢を強めている」(同)

自民党関係者が双方の背景を補足する。

「芳正氏は安倍前首相が一丁あがりの今、地元から圧力にも似た将来の総理への期待が日々大きくなっている。これに対し、河村氏は衆院議員をもう1期やり、次は秘書を務める長男に地盤を譲りたい。どちらも引くに引けない事情がある」

自民党内では、二階派のイケイケぶりに警戒感を強める声もある。ある自民党中堅議員は「二階派は山口での強引さもさることながら、菅内閣での主要ポストも総なめで目にあまる」と不満をぶちまける。

「今回の新政権で二階派は平沢勝栄復興相のほか、総務相のポストも手に入れた。党も幹事長に加え、幹事長代理、筆頭副幹事長、選対委員長代行、そして、党の金庫番、経理局長も福井照氏が続投など主要ポストを独占した。やりすぎだ」(同)

「地元の和歌山3区は二階離れが進んでいる」

権力を盾にした二階幹事長は山口3区だけでなく、各地で他派閥との摩擦を引き起こしている。

「次期衆院選では静岡5区で岸田派現職の吉川赳氏がいるのに、二階派特別会員の細野豪志元環境相を擁立しようと画策している。新潟2区でも昨年自民党入りした二階派の鷲尾英一郎氏を細田派の現職議員にぶつける構えだ。鷲尾氏は菅内閣で外務副大臣のポストに就いている。高知2区では石破派の山本有二元農水相に二階派は前知事を擁立。山口3区で林氏の鞍替えに対し『ケンカを売る』としておきながら、他選挙区ではケンカを吹っかけている」(自民党関係者)

他派閥からの批判をよそに、二階派幹部は山口3区で進める作戦を明かす。

「3区で林が鞍替えなら、トドメは除名だ。これで林は動けなくなる」

林陣営に対策はあるのか。

「二階派がどこまでも露骨にやるなら他派閥と組み、次の衆院選は本丸、二階幹事長の和歌山3区に殴り込む。本人か息子のどちらが立候補しようが、地元は二階離れが進んでいる。対抗馬はかねてから参院から鞍替えを狙っている細田派の世耕弘成参院幹事長だ。知名度でも世耕氏が勝つのは必至だ」(岸田派幹部)

二階から梯子を外せるか見物だ。