森永卓郎 (C)週刊実話Web
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韓国型構造改革へ~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

満額回答が続出した今年の春闘は、平均賃上げ率が5.3%と、33年ぶりの高水準となった。


この結果を受けて日本銀行は、3月19日の金融政策決定会合でマイナス金利政策を解除した。17年ぶりの利上げだ。私は、この利上げを致命的な政策ミスだと捉えている。


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まず、マクロの指標を見てみると、厚生労働省が3月7日に公表した1月の毎月勤労統計の実質賃金は前年同月比0.6%減で、22カ月連続のマイナスとなっている。


1月の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)は前年同月比2.0%の上昇と目標物価通りで、インフレ加速の懸念は小さい。内閣府は、昨年10~12月期のGDP改定値を踏まえて推計した需給ギャップが、2期連続のマイナス、つまり需要不足になったと公表している。


マクロ的にみると、明らかにデフレが続いているのだ。


また、今回の高賃上げでデフレ脱却が確実なのかというと、そうでもない。春闘賃上げ率の公表対象となっているのは、主要企業の正社員だけだ。


大企業社員の割合は全体の3割、そのうち正社員が6割だから、春闘の高賃上げの恩恵を受ける労働者は、2割足らずにすぎないのだ。


しかも、今回の春闘では日本製鉄が14.2%、東急電鉄が7.3%、NTTが7.3%の賃上げと公益性の高い企業が非常に高い賃上げを獲得している。


そうした人件費増は、今後物価に波及していくから、賃上げのない労働者の生活はさらに苦しくなっていく。

金融村はどこまでも上から目線?

それなのに何故日銀は利上げに踏み切るのか。私は、「ゾンビ退治」だと考えている。

利上げによって、資金繰りの苦しい中小企業は次々に淘汰され、そこで働く労働者の多くが、賃金の低い非正社員にならざるを得なくなる。極端な格差社会が到来するのだ。


実は、これには前例がある。韓国だ。1997年の通貨危機に伴い、韓国はIMF管理となった。IMFの処方箋は、ゾンビ企業の淘汰と国際競争力のある企業への資源集中だった。


この構造改革策は、経済全体としては成功し、韓国経済はV字回復していった。


しかし、それまでの儒教倫理に基づく優しい平等社会は破壊され、サムスンに就職できれば年収3000万円、零細企業に就職すると年収100万円台といった極端な格差社会に変貌してしまった。


極端な格差の存在は、社会を混乱させ、社会の維持を不可能にする。韓国はその問題を解決するため、最低賃金をこの10年で2倍に引き上げた。


それでも、韓国の昨年の合計特殊出生率はわずか0.72と、日本の1.20を大きく下回っている。


だから、日本がまず採らなければならない政策は、極端な格差が生じないように最低賃金を大幅に引き上げることなのだが、そうした動きはみられない。


それどころか政府は、3月15日に、技能実習制度に代わる育成就労制度の創設に向けた入管法などの改正案を閣議決定した。


これは、戦後の日本が一貫して禁じてきた一般労働力としての外国人労働力の受け入れに道を開くものだ。


大量の外国人労働者が流入すれば、中小企業の従業員や非正社員の賃金に強い下方圧力がかかる。政府や日銀はわざと格差を拡大させようとしているとしか考えられない。


ゾンビ企業だけでなく、ゾンビ労働者も淘汰しようと考えているのだろう。金融村は、どこまでも上から目線なのだ。