(画像)FOTO Eak/Shutterstock
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フリーアナウンサー・久米宏「こうした報道をした私たちの気持ちも分かってください」~物議を醸した『あの一言』大放言うらおもて~

男性アナウンサーが生放送の最中に、国民的アイドル歌手のお尻を触る──。


現在のテレビ番組でそんなことが行われれば、とんでもないセクハラ行為として批判が巻き起こることは必至。アナウンサーの降板は避けられず、事の次第では番組自体の打ち切りもあり得るだろう。


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1978年10月26日放送の『ザ・ベストテン』(TBS系)で第3位にランクされた山口百恵が登場した際、司会の久米宏が不審な動きを始めた。


同じく司会の黒柳徹子と話している百恵の背後に回ると、お尻を覗き込むようにして体をかがめ、手を伸ばしてペロンと撫でたのだ。


「キャー」と叫ぶ百恵に対して、「この手が悪い」とさして悪びれた様子を見せなかった久米。のちに、この顛末を「触ったふりをするんじゃ面白くないから、本当に触ったら怒られました」と振り返っている。


もともと熱心な百恵ファンであった久米は、番組中でも「百恵ちゃん大好き」と言ってはばからず、冗談めかして求愛したり、際どいイジリをしたり、度を超えた盛り上げに徹していた。


しかし、クールな態度でいることが多かった百恵も、そんな久米に対しては嫌悪感を示すどころか、ケラケラと笑顔で接していた。


久米のこうした振る舞いは、めったに見られない百恵の自然な姿を視聴者へ届けたいという、サービス精神もあってのことだった。


学生時代に有名な演劇サークルで活動していた久米は、TBSに局アナとして入社してからも、常にエンターテインメント性を意識していたという。


67年の入社からしばらくはラジオを担当していたが、その仕事ぶりを見ていた萩本欽一が、75年に『ぴったしカン・カン』の司会に抜擢。一気に全国的な知名度を獲得し、久米が問題を読む際に使う「ほにゃらら」のワードは広く流行語にまでなった。


78年に始まった前出の『ザ・ベストテン』では黒柳と共に司会を任され、79年に当時はまだ珍しかったフリーアナウンサーへ転身する。


82年には自身の名前を冠した『久米宏のTVスクランブル』(日本テレビ系)がスタート。ここで時事問題と関わったことを契機にして、85年には月曜から金曜まで1時間余りの大型報道番組『ニュースステーション』(テレビ朝日系)のメインキャスターに就任した。


ニュースについて自分なりの意見をどんどん差しはさんでいく久米のスタイルは、それ以前の報道番組にはない斬新さで大いに注目を集めたが、あまりに率直な物言いは数度の「失言」騒動にもつながった。

「風評被害」を呼んだ大誤報

96年にはインドのルポで、現地のインド人が流暢な日本語で話す様子を見た久米は、「外人の日本語は片言がいいよね」とコメント。バラエティー番組で活躍する外国人タレントたちの、たどたどしい日本語を念頭に置いての発言だったが、これに対して「外国人差別だ」という抗議文が寄せられた。

このときには久米に抗議の事実が知らされておらず、のちに「島国根性の視野の狭さと反省しています」と謝罪している。


99年には埼玉県所沢市の農家が生産した葉物野菜から、多くのダイオキシンが検出されたと伝え、価格の暴落や大手スーパーの入荷停止というパニックに発展。だが、実際にダイオキシンが検出されたのは茶葉であり、その検出量も健康に害を及ばさない程度のものだった(厚生労働省は、ゴミの焼却など日常生活で発生する程度のダイオキシンを摂取しても、健康被害は起こらないとしている)。


一連の誤報への批判に対して、久米は「こうした報道をした私たちの気持ちも分かってください」と番組内で弁明。しかし、これを開き直りと捉えられ、批判の声はさらに高まってしまった。


結局、久米が責任を取る形で「所沢の方に迷惑をかけた」と謝罪したが、農家側は風評被害の原因をつくったテレビ朝日を相手取り、損害賠償などを求める訴訟を起こす事態となってしまった(2004年、テレビ朝日が農家側に謝罪して1000万円を支払うことで和解)。


こうした失言について、久米は後年に「意図的だった」と語っている。


視聴者が失言を期待しそうな場面で、お望み通りの失言をしていたというのだ。


つまり、久米にとっては失言もエンタメを意識した行為で、視聴者に向けたサービスだったわけである。


04年に『ニュースステーション』は18年半の歴史に幕を閉じた。


久米は最終回のエンディングで「今まで頑張った自分へのご褒美」と言ってビールをあおりながら、「本当にお別れです。さようなら!」と画面越しに手を振り、最後までアクの強いところを見せた。


そんな久米も24年7月に80歳の誕生日を迎える。


現在はポツポツと続けてきたラジオ出演やネット配信を控えて、悠々自適の生活を送っているという。


(脇本深八)