本誌の表紙撮影を担当しているカメラマン・野澤亘伸氏著の文庫本が発売となった。『師弟 棋士たち魂の伝承』(光文社/680円+税)だ。
藤井聡太二冠の躍進によって脚光を浴びる棋士だが、彼らはいきなり出現したわけではない。どの棋士にも、必ず師匠がいる。将棋教室・道場などで将来有望と見なされた生徒がプロ棋士の門下へ入門し、そこから切磋琢磨して棋士となる。入門したからといって棋士になれるわけではない狭き門だ。
本書は、そうした棋士たちの師弟関係のドラマを綴ったノンフィクション。
取り上げているのは藤井聡太氏をはじめ、永世名人資格を持つ谷川浩司氏と、その弟子・都成竜馬氏ら6組。師が弟子に宛てた厳しくも温かい手紙の内容や、両者の間に顕在化した考え方の違いに葛藤を抱く逸話などが所収されている。
タイプが違うからこそ認め合う人間ドラマ
また、「食うために棋士になった」という貪欲な師匠と、大学院卒でスマートなインテリ弟子といった真逆なタイプも登場。将棋の介在なしには出会うことがなかったろう2人。タイプが違うからこそ認め合う、両者の人間ドラマに引き込まれる。
そして、そこには魂の伝承――将棋の一手とは、心を込めて指すこと――を伝える関係があるのでは、と著者は問いかける。
日本には、専門職や職人の世界に師と弟子という濃密な関係性があったが、今や絶滅寸前だ。だが、師から弟子へ、またその弟子へと連綿と受け継がれる魂は、潰えてはならない大切なものではないだろうか。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)
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