現代アート市場が活況を呈している。新型コロナによる緩和マネーの流入で、アート投資に乗り出した日本の若手経営者たちは、今や新興コレクターの中核を成しており、世界のアート市場で台風の目になっている。ウィズコロナの時代を見据え、この熱狂はどこまで続くのだろうか。
世界最大のアートフェア『アート・バーゼル』とスイスの金融グループ『UBS』が、2020年3月に発表したリポートによると、世界のアート市場は17年から2年連続して成長を遂げた後、市場規模は前年比5%減少し、637億ドル(約7兆5000億円)をわずかに上回る数字となった。減少の理由はイギリスのEU離脱と、米中貿易戦争とみられている。
それでもアメリカは、依然として世界最大のアート市場である。売上高は推定283億ドル(約3兆円)で、シェアは44%とその優位は変わらない。イギリスと中国は、それぞれ20%(127億ドル=約1兆3500億円)と18%(117億ドル=約1兆2300億円)で、上位3カ国で全体の80%以上を占めている。
日本は推計2580億円で、世界市場では4%にも満たないが、なぜか近年は世界から注目されている。ギャラリー経営者が、国内アート市場の現状をこう解説する。
「盛況の理由は3つある。まず、国内の若手経営者らが高利回りのアートに魅かれ、投資している点だ」
例えば、日本現代アートの頂点には、水玉やカボチャなどの作品群で知られる草間彌生がいる。80年代に数千万円と言われた彼女の作品は、現在では億単位の値が付くものが多い。また、27歳で夭折したアメリカのバスキアは、生前に数百万円だった作品が、今や数百億円で落札されている。
現代アート作品は段違いの高利回り
「アート作品は当たれば大きい。特に、まだ美術史上の価値が定まっていない現代アートは、古美術に比べて値上がり率が高い。2000年以降の市場は、年平均利回り9%以上とされ、これは低金利時代の中で段違いの高利回りだ。そこに若手経営者が飛びついたため、国内アート投資額は4年連続で拡大し、18年比で約5%増えている」(同)
2つ目の理由は「前澤効果」だ。ZOZOの元社長である前澤友作氏は、若くして億万長者となり、女優の剛力彩芽との恋愛騒動でも話題となった。
その一方で、約2000億円とも言われる巨額資産を背景に、世界屈指のアートコレクターとしても知られている。中でも17年、前述したバスキアの作品を約123億円で落札したことは、前澤氏の名前を不動のものにした。
「アートに対する前澤氏の積極的な行動が、若手経営者らの投資魂に火をつけた。経営者としての手腕が高く評価されていただけに、加えて趣味と実益を兼ねたアートによる投資にも刺激を受けたのだ」(同)
世界的な日本人コレクターは前澤氏だけではない。ユニクロで知られるファーストリテイリングの柳井正社長も、実は日本屈指のアートコレクターだという。
アート市場における前澤氏、柳井氏らの躍進を受け、ここ数年のオークションでは「第2、第3の草間、バスキア探し」が活発化している。
3つ目はアート市場に集まる人脈だ。ギャラリーで開催されるパーティーやアート投資家のイベントに参加することで、高い経済水準の人々から有益な情報を得ることができる。
世界に誇る独自の芸術がある日本
しかし、そうは言っても日本のアート市場は、まだ世界的に見れば小規模。いくら若手経営者が投資しても、おいしいところは主要国の投資家にさらわれ、落ち葉拾いがやっとではないか、そんな指摘もある。この点について、美術評論家が反論する。
「世界的評価が高い村上隆は、まさにアニメ、フィギュアなど、いわゆるオタク系の題材を用いた作品で一気に有名となった。つまり村上を超えるような、日本の新しいアート作家が生まれる要素は極めて高い」
確かに近年も、世界的に注目される『鬼滅の刃』や『進撃の巨人』などアニメの大ヒット作があり、過去をさかのぼれば、浮世絵、日本画という世界に誇る独自の芸術がある。
「これから現代アートがさらに盛んになれば、日本の若手経営者は他国より早く将来性のあるアート作家に遭遇し、作品に投資するチャンスが増える。そうなれば、必然的に日本市場は活性化します」(同)
例えば、新進気鋭のアート作家たちと、柳井氏、前澤氏らに続く新興コレクターのコラボ企画が実現すれば、世界に向けてアピールすることも可能だろう。
「大手シンクタンク、野村総合研究所の19年統計によると、日本には1億円以上の資産を持つ富裕層が約132万世帯(世界第3位)、そのうち資産5億円以上の超富裕層は約9万世帯も存在する。米、英、中と比較しても、日本は経済や治安の面でむしろ安定しており、アート市場における潜在的な伸びしろは、依然として高いと考えられます」(前出・ギャラリー経営者)
国内アート市場の熱狂から目が離せない。
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