森永卓郎 (C)週刊実話Web
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バブルに浮かれる“おっぱっぴー”な人々~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

2月22日の東京株式市場で、日経平均株価が1989年12月29日につけた史上最高値3万8915円を上回った。


ただ、2月16日の朝刊では、日本のGDPが2四半期連続でマイナス成長に陥り、ドイツに抜かれて、世界第4位に転落したことが報じられた。日本経済が深刻な危機に陥っているのに、株式市場だけが、マイナスの情報に耳を塞いでいる。「そんなの関係ねー」なのだ。


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同様のことは2月13日にも起きた。アメリカ労働省が発表した1月の消費者物価上昇率が前年同月比3.1%となり、市場予想の2.9%を上回った。これを受けてニューヨークダウは1.4%、525ドルの大幅安となった。インフレが根強く、FRBの利下げが予想より遅れるとの見通しからだった。


ところが同じ日、日経平均株価は、1066円、2.9%も上昇したのだ。アメリカの物価上昇率が予想以上に高かったことから、「アメリカの景気はまだまだ強いぞ」という連想が生じた株高だった。同じ情報を前にして、日本株だけが爆上がりする。

値上げもそろそろ限界にきているが…

そうした状況のなか、2月15日、全国銀行協会の加藤勝彦会長は「現在の株価はバブルではない」としたうえで、「私は、株価上昇余地は、十分にあると思う」と会見で話した。加藤会長だけではない。金融村の住人は、「80年代の浮かれた社会とは異なり、いまはバブルではない」と口を揃えている。

浮かれた社会の象徴は、ジュリアナ東京なのかもしれないが、同店が出現したのは1991年から94年で、バブル崩壊後の社会現象だ。バブル期も、庶民の暮らしは大きな変化がなかった。そのなかで、一部の高額商品だけが猛烈な値上がりをしたのだ。


それは、いまもまったく同じだ。例えば、東京・銀座「鳩居堂前」の路線価は、昨年、1平方メートル4272万円だったが、これはバブル直後(1992年)の3650万円を大きく上回っている。


昨年東京23区で販売された新築マンションの平均価格は1億1483万円と、史上初めて1億円の大台を超えた。その他、美術品や宝飾時計にとてつもない高値がつくなど、まさにバブルの再現が起きているのだ。


そして何より重要なことは、80年代後半のバブル期にも金融村の人々が、「いまはバブルではない。日経平均はまだまだ上がる」と強弁していたという事実だ。ところが、それから40年近い年月が経つと、ほとんどの個人投資家に当時の記憶を持つ人がいなくなってしまった。


現在の日経平均株価を正当化する人々が、一番の根拠にしているのは、上場企業が3期連続で過去最高益を上げる見込みということだ。しかし、そもそもバブル期には利益は水増しされる。


一つの理由は、値上げが浸透しやすいこと。そしてもう一つが企業の金融収支がプラスになることだ。ただ、値上げはそろそろ限界にきている。


例えば日本マクドナルドは、ビッグマックの値上げを続けて最高益をたたき出したが、ビッグマックの価格はすでにモスバーガーやバーガーキング、フレッシュネスバーガーとあまり変わらなくなっている。安易な値上げはもはやできない。


また、中国のバブル崩壊で今後、デフレが輸出されてくるため、インフレが終息する可能性は高い。それはバブル崩壊が近いということだ。