森永卓郎 (C)週刊実話Web
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政府の“引き締め政策”で近づく破局~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

金融市場関係者の9割が、4月までのマイナス金利解除を織り込んでいるという。日銀の内田真一副総裁が解除を匂わせているからだ。


暴挙以外の何物でもない。内閣府はデフレ脱却に関して、(1)消費者物価上昇率2%、(2)GDPデフレータープラス、(3)単位労働コストプラス、(4)需要超過の4条件を満たすこととしてきた。


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現状、(3)と(4)の条件は満たされていない。つまり、デフレは続いている。にもかかわらず、日銀は金融引き締めに走ろうとしている。政府が掲げる「金融正常化」を達成するためだ。


財政政策では、すでに強力な引き締めがなされている。2024年度の一般会計の基礎的財政収支赤字は、8.8兆円だ。安倍政権末期の20年度は80兆円の赤字だったから、岸田政権は財政赤字を4年で10分の1に絞っている。


また、3月末には「国の財務書類」という統計が発表されるが、日銀を含めた「統合政府」で考えると、日本政府は資産超過になる見通しだ。


つまり、借金もなければ赤字もないのに、財務省は国民にさらなる負担増を押し付けようとしている。典型が、異次元の少子化対策の費用を医療保険料に上乗せしようとしていることだ。


岸田総理は「国民1人当たり月額500円弱で、今後の賃上げを考えれば、実質的な負担はない」としているが、一般サラリーマンの負担増は年間1万円を超える可能性が高い。


それでも、少子化が食い止められるならまだよいのだが、異次元少子化対策に盛り込まれたのは、児童手当の高校生までの延長や第3子への給付拡大などの「子育て支援」であり、少子化対策としての効果はほとんどない。


また、電気・ガスやガソリン代の価格抑制のための補助金も、5月以降、大幅に縮小される予定だ。

いま日本が対策をすべきは…

それでも、金融・財政の緊縮化を進めるための唯一の根拠は、国民生活を苦しめている「物価高」の抑制だ。しかし、物価高はすでに相当鎮静化している。

例えば、1月の東京都区部の消費者物価指数は、前年同月比1.6%の上昇と、すでに政府目標の2%を下回っている。


日銀が発表した昨年12月の企業物価指数(旧卸売物価指数)は前年同月比で0.0%上昇と、すでに物価上昇は止まっている。


また、中国政府が発表した1月の消費者物価指数は0.8%の下落と、4カ月連続のマイナスとなっている。不動産バブルの崩壊にともなって、中国経済は完全なデフレに陥っている。


日本にとって中国は最大の貿易相手国だから、このデフレは今後日本に「輸出」されてくる。すでに中国産の鉄鋼製品などでは、たたき売りが始まっているのだ。


こうした状況を踏まえれば、いま日本が対策を講じなければならないのは、インフレではなく、デフレであることは明らかだ。具体策としては、財政政策で減税や社会保険料の負担減により消費者の手取りを増やすこと。そして金融政策では、日銀が買い入れる国債の量を増やして資金供給を拡大することだ。


ところが、政府がやろうとしているのはそれとは真逆の引き締め政策だ。デフレのなかで、財政と金融を引き締めると何が起きるのか。それは、これまでの経験で明らかだ。経済が恐慌状態に陥るのだ。


新NISAの導入や株価の最高値更新に浮かれている場合ではない。破局は近づいているのだ。