松井秀喜「結果を左右するのは願いの強さよりも『平常心』ではないかと思います」~心に響くトップアスリートの肉声『日本スポーツ名言録』――第88回
映画『ゴジラ-1.0』が全米で大ヒットを記録し、アカデミー賞の「視覚効果賞」にノミネートされて話題を呼んだが、ゴジラと聞いて、まず松井秀喜を思い出す人も多いだろう。日米を股にかけた活躍は、本家の「怪獣王」にも劣らない。
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巨人や大リーグのヤンキースなどで活躍した松井秀喜は、石川県能美市出身。同市の実家に隣接する『松井秀喜ベースボールミュージアム』は洋館風の立派な建物で、その中には松井に関する資料や記念品の展示と並び、松井自身による次の言葉も掲げられている。
「日本海のような広く深い心と/白山のような強く動じない心/僕の原点はここにあります」
この白山とは石川県を代表する山で、「広く深い心」と「強く動じない心」について、松井は「不動心」と説明している。失敗したり、悩んだり、苦しんだりしても、くじけたり、逃げ出したりはせず、「マイナスをどうプラスに変えていくか。いつもそんなことを考えています」とも語る。
現役時代の成績を振り返ってみれば、もちろん松井は文句なしの一流選手であり、アジア人初のワールドシリーズMVP獲得は、イチローや大谷翔平も成し得ていない快挙。巨人時代には本塁打王と打点王が各3回、首位打者1回を獲得しており、松井は間違いなく平成の日本球界を代表する大打者であった。
ただし、同時期の巨人には落合博満や清原和博といった個性的なスター選手がいたため、どこか地味な印象が付いて回ったのも事実だろう。大リーグで最初に所属した名門のヤンキースも、デレク・ジーターやアレックス・ロドリゲスらがそろったスター軍団であり、松井はあくまでもその中の一人であった。
松井が成績以外で特別に目立つことがなかったのは、その温厚で慎み深い性格によるところが大きい。松井本人によると、人前で他人の悪口を言ったことがないという。
その品格の理由として、松井は「腹が立ったり、不満が出てきたりするのは仕方がありません。思ってしまうのだから、自分にも止められない。でも、口に出すか出さないかは、自分で決められます。そこで一線を画したほうが、自分をコントロールできるような気がします」と著書に記している。
大好きなAVでストレスを解消
とはいえ、まったくの堅物ということでもなく、独身時代にはAV(アダルトビデオ)好きをしばしば公言していて、アメリカのメディアでも「5万5000本のアダルト作品を所有している」などと報じられたこともあった。また、有名人特有のゴシップやプライベートの情報が広まらないのは、やはり松井の人徳によるところが大きいだろう。ちなみに妻子はアメリカ在住で、男の子が2人。2024年には11歳と7歳になる。
試合中でも、感情を爆発させるような場面はほとんどなく、本塁打を放ってもベースを回る際に軽く腕を掲げる程度。これは松井が意識的に感情を抑制しているためであり、「結果を左右するのは願いの強さよりも『平常心』ではないかと思います」と述べている。
それもあって松井のプレーに関しては、むしろプロ入り後よりも、高校時代の〝5打席連続敬遠〟を印象深く覚えている人が多いのではないか。
騒動をきっかけに芽生えた自覚
1992(平成4)年8月16日、夏の甲子園大会2回戦の星稜(石川)vs明徳義塾(高知)。明徳の投手は松井に対し、徹底してアウトコースに大きく外れる球を投げ続けた。最初から捕手が立ち上がる露骨な敬遠ではなかったために、記録上は「故意四球」ではなく単に「四球」とされたが、勝負を避けていたことは明白。5回表の第3打席では一塁走者がいたにもかかわらず、前の2打席と同じくストレートの四球となったことで、球場全体にどよめきが生じた。
明徳の1点リードで迎えた9回表二死三塁、第5打席も四球になると「ゴジラ松井」の打棒に期待して球場へ足を運んだ観衆は、明徳に向けて一斉に怒号を浴びせることになった。
試合の結果を踏まえ、甲子園における勝利至上主義に対して議論も巻き起こったが、敗れた松井は試合後に「正直言って野球らしくない。でも歩かすのも作戦。自分がどうこう言えない」とコメントしている。
また、松井は現役引退後に「ジャイアンツに入ったときに『あの甲子園で5回敬遠されたバッターなんだ』ということを、やっぱり成績で示さなくちゃいけないっていうことは、心の中でどっかにあったと思うんですよね」と振り返っている。
あれだけ世間を騒がせた以上、その反響にふさわしい選手にならなければと、プロとしての自覚が〝5打席連続敬遠〟によって生まれたというわけだ。
そんな松井の座右の銘は、星稜高校時代の山下智茂監督から授かった「心が変われば行動が変わる。行動が変われば習慣が変わる。習慣が変われば人格が変わる。人格が変われば運命が変わる」というもの。
球界を代表する大スターになっても決しておごらず、恩師から教わった高潔な精神を持ち続けた松井は、実にまれな存在なのである。
松井秀喜 PROFILE●1974年6月12日生まれ。石川県出身。星稜高から92年ドラフト1位で巨人入団。チームの主軸として活躍した後、2003年にヤンキースへ移籍。2012年に現役引退を表明。日米通算507本塁打を記録。13年に国民栄誉賞を受賞。
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