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五輪の「顔」を変えただけでよいのか~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 (C)週刊実話Web

2月18日、東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の新しい会長に、橋本聖子氏が就任した。これで、橋本氏に代わって新たに五輪担当相に就任した丸川珠代氏、主催都市の小池百合子都知事を加えて、オリンピックの顔がすべて女性になった。そのことを男女平等に向けての大きな前進だと、評価する声が上がっている。国際オリンピック委員会(IOC)も「完璧な選択」と称賛しているが、本当にこの人事は正しかったのだろうか。

森喜朗前会長は、女性蔑視発言で辞任に追い込まれたが、本質的な問題は、森氏の強権的かつ独善的な政治力の行使だった。例えば、森氏はマラソン競技の開催場所を札幌に変更する際、小池都知事に相談せず勝手にIOCと合意してしまった。女性蔑視発言は、こうした森氏の体質からにじみ出たものだ。

橋本会長の自民党内での派閥は旧・森派(現・細田派)で、丸川五輪担当相も同じだ。つまり、これだけの国際問題を引き起こしておきながら、旧・森派全体としてみると、ポストはまったく失われていないのだ。しかも、橋本会長は「正すべきものは正し、受け継ぐものは受け継ぐ」と表明して、今後の森氏からの影響力を否定していない。

オリンピック憲章は、男女平等を謳うだけでなく、あらゆる場面での政治的中立を求めている。しかし、今回の新体制は、橋本会長が国会議員を辞職していないことだけでなく、森氏の影響力が続くこと、さらに会長の選任過程で官邸が深く関与したという点で、政治的中立とはほど遠い状態になっている。

偽陰性の問題は避けられない

そうした状況のなかで一番の問題は、オリンピックを本当に開催するのかどうかという判断だ。橋本会長は「安全で安心な体制をつくっていく」と開催に前向きで、これは菅義偉総理や森氏の立場と完全に一致している。一方で、現状では6割から8割の国民が、オリンピックの中止や延期を求めている。

一部にはワクチンが普及して、新型コロナに打ち勝つことができるとする見立てもある。だが、それは絶対に不可能だ。日本でも、一般国民に接種が始まる時期は見通せておらず、ワクチンの供給状況によっては、年内に打ち終えることさえ確実ではないと言われている。しかも、ワクチン供給は先進国に集中していて、世界全体でみれば、年内にワクチンが普及する見込みはまったくないのだ。

オリンピックが開催されれば、世界中から集まってくる選手は、競技のなかで、あるいは競技外でも濃厚接触を繰り返すだろう。選手やコーチに、事前のPCR陰性証明を求めることだけは決まっているが、偽陰性の問題は避けられない。

また、仮に1人でも陽性者が出た場合、その選手団を受け入れてよいのか、入国した後も一定期間の隔離をするのかなど、これから決めなければならないことが多すぎる。

橋本会長に求められるのは、国内外がどのような感染状況なら開催できると判断するのか、また、国内でどのような感染防止策を講じれば、安全で安心できるのか、科学的かつ具体的数字で示すことだ。もちろん、選択肢のなかには開催中止や無観客開催も含めるべきだ。もし、それをせずに開催ありきで突き進むのであれば、会長交代はとんだ茶番劇だったことになる。

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