森永卓郎 (C)週刊実話Web
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地方経済のギリシャ化がバブル全面崩壊の引き金に~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

日本銀行は、1月23日に公表した『展望レポート』のなかで、「物価安定の目標」が実現する確度は、引き続き少しずつ高まっているとして、近い将来にマイナス金利を解除する可能性を強く示唆した。


永らく続いた金融緩和は大きな転換期を迎えようとしている。


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一般論として中央銀行が金融引き締めに向かうのは、景気の過熱を抑えるためだ。実際、東京の経済をみていると、いまの景気はバブルに近い状態になっている。


例えば、不動産経済研究所が発表した昨年1年間の東京23区の新築マンションの平均価格は、前年より39.4%値上がりして、1億1483万円となった。


1億円の大台を突破したのは、史上初だ。発売されたマンションのなかで最も高額だったのは、東京・港区で建設が進む『三田ガーデンヒルズ』の45億円だ。


都心部では、アルバイト代も高騰しており、1500円という高額時給も珍しくなくなっている。これまで、サラリーマンのランチは、ワンコインが常識だったのが、1000円を超える店が増えてきた。

地方経済を救う方法はあるにはあるが…

一方、郊外や地方はどうか。私が住んでいる家は、都心から50キロほど離れた地域だが、土地40坪の新築一戸建てが3000万円強で手に入る。値上がりはほぼゼロだ。

アルバイトの時給は1000円強で、最低賃金に張り付いていて、ランチの予算もワンコインのままだ。


いま景気が過熱しているのは、東京や大阪といった大都市だけなのだ。そうした状況のなかで、金融引き締めを断行すると何が起きるかは、火を見るより明らかだろう。地方経済が失速に向かうのだ。


現実に、そうした事態は10年余り前の欧州で起きている。当時、欧州経済は低迷し、早急なゼロ金利への誘導が求められていた。しかし、比較的好調なドイツ経済に配慮して、金融緩和が遅れていた。


その被害を最も受けたのが、ギリシャだった。ユーロに参加しているギリシャは、独自の金融政策を取ることができない。つまり、ギリシャはドイツの犠牲になって、経済危機を迎えたのだ。


もちろん、一律の金融政策が避けられないとしても、ギリシャを救う方法はあった。それはユーロ圏の各国が協調して、ギリシャへの財政支援を行うことだった。しかし、そんな奇特な国は出てこなかった。


同様に今後、日銀が金融引き締めに乗り出したとき、地方経済を救う方法はある。例えば、地方交付税を大幅に増額するとか、地方を中心に公共事業を大幅に積み増しするといった方法だ。


しかし、財政緊縮に走る財務省が、そんな財政政策を取るとは到底思えない。結局、日本の地方経済は、東京の犠牲となって押しつぶされていくのだ。


もちろん、地方経済がギリシャ化するなかで、東京や大阪といった大都市だけが繁栄を続けることも、またあり得ない。


数年のタイムラグをおいて、大都市も道連れになって沈んでいく。その原因はバブルの全面崩壊だ。


冷静に考えてほしい。サラリーマンの生涯年収が、せいぜい2億5000万円という世の中で、マンションの価格が1億円超なんてことがあり得るはずがない。


いまから10年後、バブル崩壊を経験した後の日本人は、「あのとき、なぜマンションに1億円以上の値段がついていたのだろう」と思うに違いないのだ。