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『ワン・モア・ライフ!』/3月12日(金)より全国公開~やくみつる☆シネマ小言主義

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『ワン・モア・ライフ!』
監督・脚本/ダニエーレ・ルケッティ
出演/ピエルフランチェスコ・ディリベルト、トニー・エドゥアルト
配給/アルバトロス・フィルム

いかにもイタリアらしいライトで陽気なタッチで、深刻になりがちな「生と死」を扱ったコメディー映画。

バイクの運転中、自分が信号無視した結果とはいえ、あまりに短命で死んでしまったことに対して、あの世の入口で猛抗議した主人公のパオロ。言ったもん勝ちで、寿命の延長が許され、地上に戻ります。しかし、与えられた人生のロスタイムはたったの92分。さあ、どうする!? と見る人が誰しも自分だったら…と想像してしまう展開です。

正直言うと、パオロが考えたことや、とった行動を見て、もっとやりようがあるだろうにと思ってしまいました。国民性の違いもあるでしょうし、そもそも残された時間が92分だと、ろくなことができないのかもしれない。それでもなぜ、もうちょっとどうにか…と感じたのか。それは、この映画を見る少し前に、「賢いお金の使い方」などの解説でTVでも人気者だった流通ジャーナリスト金子哲雄さんの「完璧な終活」の記事をたまたま読んでいたからかもしれません。

人間誰しも死の92分前は存在します

41歳で余命わずかと知った金子さんは、残される家族が困らないようお金と物の行き先を決め、通夜・葬儀のすべてを仕切り、見事に自分終いをして逝かれたそうなんです。そこまでするには、92分はいかにも短いですけれども、自分だったら家族への伝達事項の整理に使いたい。しなきゃならない解約とか、放っておくと残された人が困ると思う事務的手続きに費やすのではないかと。

ここがまぁ、日本人の几帳面なところだと思うんですが、92分なら、そこまでやるのでギリでしょう。

一方、もう少し長い時間、例えば1週間与えられたら、ちょいワルオヤジのパオロなら、とっかえひっかえ女の人と遊ぶなどしてお下劣な映画になりかねません。彼の場合は、このくらいがちょうどよかったのかも。

考えてみれば、人間誰しも死の92分前は存在します。その時は残りを知らないだけで、必ずあると思うと、自分の場合は何を考えてるだろうか。実際は意識が混濁してそれどころではないかもしれないし、むしろその方があれやこれや考えなくて済むのかも。

というのも、最近とみに、夢と現実の区別がつかないことが増えてきていまして。

昨夜も「前の収録が長引いて、次の仕事に間に合わない」というリアルな夢を見て、起きた瞬間、これは夢だとホッとしました。年をとるにつれ、寝ているのか起きているのか、はたまた生きているのか死んでいるのかさえ曖昧になってきて、結果、死ねるんじゃないかと想像するこの頃です。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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