森永卓郎 (C)週刊実話Web
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財務省の思惑通りの自民党~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

昨年暮れに自民党のパーティー券の収支報告書不記載問題が発覚したとき、私は岸田総理の差し金だと考えていた。政治資金の裏金問題は、自民党全体の問題であるにもかかわらず、問題の指摘が、安倍派と二階派に集中していたからだ。


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昨年11月、岸田政権の内閣支持率が危険水域にまで下落するなかで、菅前総理などと会談した二階元幹事長は、「徹底的にやるぞ」と岸田おろしを宣言し、そこに安倍派が乗る気配をみせていた。このままでは今年秋の総裁選まで持たないと判断した岸田総理が、政治資金問題で安倍派と二階派をつぶしにきたと考えたのだ。


ところが、元財務官僚で数量政策学者の高橋洋一氏の見立ては違っていた。今回の政治資金問題の背後には、財務省がいるというのだ。岸田政権が決めた4万円の所得税・住民税減税は、増税路線を敷いてきた財務省にとっては許し難い蛮行だ。「岸田は許さない」と考えた財務省が、岸田政権を倒しにきたというのだ。


現時点で判断すると、私の判断は間違っていて、高橋洋一氏の見立てが正しかったようだ。安倍派と二階派の会計責任者が立件され、両派とも派閥の解散に追い込まれるとともに、岸田派の会計責任者も略式起訴とはいえ立件され、岸田派自身も解散に追い込まれたからだ。岸田総理自身が、瀕死の重傷を負ったことになるのだ。


多くの国民は、今回東京地検特捜部が全国から数十人もの検事を集め、鳴り物入りで捜査を始めたにもかかわらず、結局逮捕されたのは小物ばかりで、自民党幹部の刑事責任が問われなかったことに不満を持っている。しかし、問題の本質はそこではない。

“当年度”ではなく“来年度”の予算

自民党というのは、政策の異なる派閥という小政党の連立政権だ。そして、いまや唯一となった積極財政派の安倍派(清和政策研究会)が解散に追い込まれた。一方、最も厳しい財政緊縮を掲げる麻生派(志公会)は存続が決まっている。その結果、今後の自民党が掲げる政策が財政緊縮一辺倒になることが、ほぼ確実になったということだ。

いまの自民党は、高橋洋一氏が当初から懸念していた通り、財務省の思惑に沿って事態が進んでいる。極端な話、秋の総裁選で、財務省に最も忠実な鈴木俊一財務大臣(麻生派)が勝利するというシナリオも、あり得ない話ではなくなってきた。そうなったら、来年以降、日本は再び増税地獄まっしぐらになる。国民生活という視点から見たら、裏金問題よりもはるかに深刻な事態が待ち受けているのだ。


実は、財務省はすでに増税への布石を打っている。今回の能登半島地震の復興対策予算で、岸田政権は来年度予算案の予備費を倍増する閣議決定をした。私はそのとき、猛烈な違和感を覚えた。予算が「来年度」予算だったからだ。これまでも、日本は大きな震災に見舞われてきた。その度に、財務省は補正予算を作り、復興支援に充ててきた。しかし、それらは例外なく「当年度」の補正予算だった。そうしないと、すぐに災害対策が行えないからだ。それが、今回に限って「来年度」予算で対応する。それは何故か。


実は、来年度予算は災害対策の補正予算で赤字が拡大する。それを踏まえて、財務省は緊縮路線の必要性をアピールし始めているのだ。そこには、災害復旧優先の視点も国民生活改善の視点もないのだ。