蝶野正洋 (C)週刊実話Web
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蝶野正洋『黒の履歴書』~社長であり、現役選手であること

プロレス業界は、毎年1月末に大きな動きがある。各団体が所属選手との契約更改の時期を迎えるので、退団や移籍、それに伴うさまざまな確執も浮き彫りになってくる。


新日本プロレス(以下、新日本)では昨年末、新たに代表取締役社長に棚橋(弘至)選手が就任した。ただ、所属選手であることは変わらず、現役レスラーとしても試合を続けていくそうだ。俺はこの人事に対し、手放しで喜べない部分がある。


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棚橋選手は現在47歳で、レスラーとしてのキャリアは20年を超えている。歴戦のダメージで満身創痍な状態で、選手と経営者の二足の草鞋を履くのは体力的になかなか厳しく、命を削ることになると思うんだよ。


NOAHの三沢(光晴)社長や、ZERO1の橋本(真也)選手もそうだった。激務の中で時間を作るには、どうしてもケガの治療を後回しすることになってしまう。しかし、社長兼レスラーとしてコンディションが万全ではない状態でリングに上がり続け、結果的に命に関わることになってしまった。


だから棚橋選手には、そうならないように信頼できる側近をつくってほしい。プロレス団体の社長はフロントと選手の板挟みになる可能性が高く、周りからいいように使われて潰されてしまう可能性もある。ベテラン選手にご意見番のような立場でサポートしてもらうなど、不測のトラブルにも対応できるような盤石な体制を作り上げてほしいんだよ。


基本的にプロレスラーというのは自己中心的で、自分が一番目立ちたい。この状況に乗じて、団体内での出世を画策しているレスラーもいるだろうし、高額のギャラを掲示されて他団体に移籍する選手も出てくるかもしれない。

問題は山積みだが…

実際、すでにAEWという海外の団体には、新日本のエース級の外国人選手が移籍している。まぁ、AEWは提携団体なので、またいつでも新日本に参戦できるとは言っている。ただ、これは昔のWCWと似ているんだよ。

スコット・ノートンやビッグバン・ベイダーは「新日本プロレスにもいつでも参戦できる」という条件で移籍し、WCWの所属になった。でも、いざ新日本が呼ぼうとすると、「ストーリーが進行している最中なので今は無理」と言われたり、ファイトマネーを釣り上げてきたりして、なかなかうまくいかなかったんだよ。


それに最近はテレビ中継に加えて、インターネットテレビ局の『ABEMA』や、新日本とテレビ朝日が共同運営している動画配信サービス『新日本プロレスワールド』など、新日本の試合が視聴可能なメディアが増えて、映像の権利契約も煩雑になっている。この肖像権の問題は、昔からずっとくすぶっている問題なんだよ。


人気選手への適正な評価、外国人選手の契約、ベテラン選手の処遇、それに新人の育成…。選手の周辺だけでいろいろあるのに、さらに動画の肖像権や興行についても問題が山積みとなっている。これらすべてに目を配って会社を引っ張っていくのは、本当に大変な仕事だと思う。


棚橋選手には決して無理をせず、コンディションを最優先にして頑張っていってほしいね。
蝶野正洋 1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。