森永卓郎 (C)週刊実話Web
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バブル崩壊後の最高値を更新した日経株価~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

総務省が1月9日に発表した昨年11月の家計調査によると、2人以上の世帯の実質消費支出は前年同月比マイナス2.9%だった。消費支出の前年比減は9カ月連続だ。景気は、真っ逆さまに下落している。


一方、日経平均株価は1月15日の終値で3万5901円と6連騰、バブル崩壊後の最高値を更新した。


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いったい何が起きているのか。実は、このことこそが資本主義の象徴なのだ。


かつてマルクスは、モノの価値を二つの側面から言った。一つは労働価値だ。例えば、キャベツが1個200円なのは、キャベツを作る農家の人件費、肥料を作る農家の人件費、苗を作る農家の人件費など、そのものに込められた労働の価値の合計になるとした。供給コスト側の視点だ。


一方、需要側の視点として、マルクスは使用価値という理念を紹介している。キャベツが200円なのは、キャベツの使用価値が200円だからだ。もし、それが2万円だったら、誰も買わない。100円のレタスを買ったり、サラダ菜を買えば済むからだ。マルクスの労働価値、使用価値の議論は、資本主義社会でも平時は当てはまる。ただ、資本主義の厄介なところは、たまに価格メカニズムが「幽体離脱」を始めてしまうことなのだ。


1630年代のオランダでチューリップの栽培ブームが起きた。花を掛け合わせ新しい品種を作ると大儲けできるという噂からだった。チューリップの球根は高騰し、ガルブレイスによるとピーク時には球根1個が芦毛の馬2頭、馬具一式、馬車1台と等価になったという。つまり、球根1個に数千万円の値段が付いたのだ。その理由はたった一つ。もっと値上がりすると人々が思ったからだ。ただ、幽体離脱はある日突然終了し、チューリップの球根の値段は数百円に戻った。借金をして球根を買っていた人は、軒並み破産者となった。

罠にはまってしまう…!?

私は、いまの株価はこのときの球根だと考えている。そして、この事態に直面して我々が取り得る道は三つあると思う。

第一は、いままで投資してきた株式や投資信託をすべて売って、元本保証のある商品に乗り換える方法だ。今後、投資で儲かる可能性もないが、大損をする可能性もない。触らぬ神に祟りなし戦略と言ってもよい。私は基本的にこの立場だ。


第二は、あえてこの上げ相場に挑戦する戦略だ。日経平均はどこまで上がるか分からない。もしかしたら今の2倍になる可能性さえある。だから、上がり続ける限り買い続け、大きなリターンを目指すのだ。ただ、この戦略で難しいのは、売りのタイミングだ。株は買うよりも売るほうがはるかに難しい。そろそろ手を引こうと決意したその日に株価が突然、半値以下に落ちているなどということも十分あり得るのだ。だから、この戦略はギャンブラー向きと言えるだろう。


第三は、新NISAや投資元年などといったセールストークに乗せられて、投資デビューしたものの、株価暴落に見舞われ、価値が大きく減った投資信託を塩漬けで抱えながら、一生、生きていくという戦略だ。個人的には、この罠にはまる日本人が最も多いのではないかと懸念している。


いずれにせよ、いまは自分の人生を大きく左右する投資判断の時期であることは、間違いない。投資の前に、しっかり人生設計を考えておくべきだろう。