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経済壊滅…北朝鮮が外貨稼ぎに手を染める“サイバー強盗”の実態!

金正恩
(画像)Alexander Khitrov / Shutterstock.com

国連安全保障理事会(国連安保理)の北朝鮮制裁委員会専門家パネルは、今年の年次報告書で、北朝鮮が暗号資産(仮想通貨)取引所へのサイバー攻撃を敢行し、2019年から20年にかけて計3億1640万ドル(約330億円)相当の仮想通貨を窃取したことを明らかにした。これらは核兵器・ミサイルなどの軍事開発資金として使われた可能性が高いという。

実際、米司法省は2月17日、北朝鮮の軍情報機関の職員であるパク・ジンヒョク、チョン・チャンヒョク、キム・イルの3被告らが、暗号資産取引所だけでなく、世界各地の銀行や企業、さらには現金自動預払機(ATM)への直接攻撃で計13億ドル(約1380億円)超を盗んだとして、犯罪の謀議と通信詐欺、銀行詐欺の罪で起訴したと発表した。また、3被告は悪意ある暗号通貨プログラムを広めた罪にも問われている。

サイバー攻撃の具体例を挙げると、16年にバングラデシュ中央銀行の国際金融決済網をハッキングし、総額8100万ドル(約89億円)を盗んだ事件や、18年に日本の仮想通貨取引サービス会社から、約5億7000万ドル(約600億円)を盗んだ事件などだ。

北朝鮮によるサイバー攻撃が頻発している韓国でも、仮想通貨の関連会社がサイバー攻撃を受け、巨額資金が流出した上に倒産に追い込まれたケースもあった。

こうした大規模な「窃盗」が多発している背景には、かつて外貨獲得のために北朝鮮が密輸出していた覚醒剤が、国境を接する中国当局の取り締まり強化や国連安保理による経済制裁の長期化で、行き場を失ったことがある。

あらゆる物資が枯渇している北朝鮮

「そのため、合成麻薬は北朝鮮の国内に出回り、『オルム(氷)』や『ピンドゥ(氷毒)』といった隠語で呼ばれ、未成年を含む一般庶民にも浸透している。麻薬汚染によって社会不安が広がり、副次的な犯罪も起きているが、脱北者によるとタバコを一服するような感覚で、『氷をやろう』と言い合っているそうです」(北朝鮮ウオッチャー)

現在の北朝鮮は慢性的な食糧難はもちろん、原油不足からあらゆる物資が枯渇しており、日中の太陽光で暖を取るしかないほど困窮しているという報告もある。こうした経済的な行き詰まりの打開策として、北朝鮮はサイバー攻撃に一層力を入れているようだ。

「北朝鮮は一昨年、海外の専門家を呼んで、仮想通貨に関する会議を秘密裏に開催している。最大の目的は最先端のハッキング防止策について、北朝鮮側が把握することにあったと言われます。つまり、北朝鮮は防止策の裏をかいた攻撃方法の研究に余念がないということです。その中心にいるのは、秘密工作機関である『偵察総局』で、ここでは専門部隊からメンバーを募り、総勢2万人余りをハッカー攻撃要員に仕立てています」(日本の公安関係者)

コンピューター上の技術さえ習得すれば、ハッカー部隊は低コストで運営できる。椅子に座りながら外貨獲得が可能になるばかりか、正体を見破れないケースも多く、秘密国家の北朝鮮にとっては、格好の外貨獲得手段なのだ。

韓国貿易協会の関係者によると、北朝鮮の輸出入の90%強を占めていた中朝貿易は、昨年1~10月の累計貿易額が前年同期比約76.0%減少し、事実上、貿易を停止した状態にある。

最新兵器の設計図をサイバーで盗んだ!?

「しかし、北朝鮮はそれでもしぶとく、くだんのサイバー攻撃や海上で積み荷を移し替える『瀬取り』で、核兵器・ミサイルなどの開発を着々と進めています。金正恩総書記はトヨタの高級車『レクサス』に乗っており、それだけでも経済制裁逃れは明らか。しかも、昨年10月10日に行われた党創立75周年の軍事パレードでは、新型の地上軍兵器が披露されました」(軍事アナリスト)

以前の軍事パレードでは、ロシアや中国から「お下がり」でもらったポンコツ兵器を揶揄されていたが、最近は多弾頭型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や短距離戦術核ミサイルなど、最新鋭に切り替えられている。経済制裁の網を抜けて、北朝鮮には中露だけでなくイラン、そして、自衛隊に供給される車両のコピー製品まで入ってきている。

日本の防衛産業から、武器そのものが北朝鮮に渡るとは考えられないが、サイバー攻撃により設計図を盗まれたか、いわゆる「死の商人」が介在した可能性は捨てきれない。いくら困窮していようと、北朝鮮が核兵器・ミサイルの近代化を推し進めているのは明白。その先には、是が非でも武力統一したい国があるということだ。

こうした北朝鮮からの攻撃を防ぐ手段として、「ファイブ・アイズ」と呼ばれる米英などアングロサクソン系の英語圏5カ国による機密情報共有の枠組みに、日本が独仏と共に参加する案が浮上している。

北朝鮮だけでなく、中国も念頭に置いたサイバー攻撃対策を各国と共同で行うことは、確かに検討する価値がある。しかし、果たして「スパイ防止法」が存在しない日本が、これらの国から信用を得られるかどうかが、今後の課題として浮上してくるだろう。

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