森永卓郎 (C)週刊実話Web
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奇跡ではなく単に運がよかっただけ…の可能性~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

1月2日、新千歳空港から乗客乗員379人を乗せて羽田空港に向かっていた日本航空516便が、羽田空港C滑走路に着陸しようとし、滑走路上で離陸待機していた海上保安庁のボンバルディア機と衝突、炎上した。


これだけの重大事故にもかかわらず、516便は衝突の18分後には乗客乗員全員が無事脱出に成功して、誰一人命を落とさなかった。この事態を海外メディアは「奇跡」と呼び、脱出を成功させた日本航空の乗務員を称賛している。国土交通省も基本的に同じ立場だ。


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ただ、私はヒーロー選びは時期尚早だと考えている。今回、死者が出なかった最大の原因は奇跡ではなく、単に運がよかっただけの可能性があるからだ。それほど、関係者のミスが重なっているのだ。


まずは、管制官だ。海上保安庁のボンバルディア機は地上でもレーダーで捉えられており、管制許可がない状態で、滑走路に40秒間も駐機していたことは、管制のモニターで警告されていた。管制官はそれを見落としていた。


ボンバルディア機も、管制から許可を得ずに滑走路に侵入するという致命的なミスを犯している。


次に日本航空516便だ。操縦士は、滑走路上のボンバルディア機を視認することができなかったと主張している。夕方で視界が悪かったことは事実だが、滑走路のど真ん中に駐機している海保機を本当にまったく視認できなかったのか。視認できていれば、着陸復行をかけられたはずだ。


そして、日本航空の客室乗務員だ。衝突後、滑走路わきに緊急停止した516便は、すでに発火していた。今後、厳密な時系列の検証が必要だが、乗客の証言によると、そこから乗客の脱出まで6~7分の時間がかかった可能性が高い。

「海保機は民間機に優先する」空気

航空業界には「90秒ルール」というものがあり、非常用脱出口の半分以下を使って事故発生から90秒以内に乗客全員の脱出態勢を整えなければならない。そのように機体の設計も、訓練も行われている。それが、本当にできていたか検証しないといけないのだ。

ただし、最も検証すべきは、海保機の機長が滑走路に進入しようとしたときに、空港管制に伝えた「C51番目、ありがとう」という言葉だ。通常使われないこのセリフが、事故の最大の原因とする専門家も多い。


ここから先は私の完全な臆測だが、海保機は混雑する羽田空港からいち早く離陸したかったのではないだろうか。普通に滑走路に順番待ちで並んでいたら、時間がかかってしまう。そこで、滑走路の途中に誘導してもらえるよう要請したか、管制官の忖度でそうした指示をした。海保機や自衛隊機は、日本の領土、領海、領空を守る義務がある。だから、日本の国土が侵犯されたり、その恐れがあるときは、民間機を押しのけて緊急発進する必要がある。


しかし、今回は被災地への物資の運搬が目的だったのだから、緊急発進の必要はないのだ。それでも、なんとなく「海保機は民間機に優先する」という空気が染みついていて、ついつい優先してしまった。それが、「C51番目、ありがとう」という謎の言葉につながっているのではないか。


いずれにせよ、現段階で確定しているヒーローは、燃えにくい素材で機体を作り上げたエアバス社だけと断じても過言ではない。検証を続けるべきだ。