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『許永中 独占インタビュー「血と闇と私」』(青志社:許永中/大下英治 本体価格1700円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊

『許永中 独占インタビュー「血と闇と私」』(青志社:許永中/大下英治 本体価格1700円)
『許永中独占インタビュー「血と闇と私」』(青志社:許永中/大下英治本体価格1700円)

バブルの世を騒然とさせたイトマン事件発覚の1991年、筆者は高校生。しかし正直、事件自体より逮捕された許永中という人間そのもののインパクトがはるかに強烈だった。スキンヘッドに眼鏡で巨体。突出したいわゆる〝キャラ立ち〟の仕方に加え、黒幕として絡んだ案件は無数と報道されながら、苗字が「許」なのも何だか妙におかしかった。

その回顧録たる本書。むせ返りそうに濃い人物とエピソードのつるべ打ち状態がこれでもかと続くが、多くの誤植(345Pの〝不遇鮮人〟は最たる例。ここは〝不逞鮮人〟の間違いだろう)をものともせず、読み進めるうち湧き起こるのは不思議なユーモアだ。十中八九、著者に笑わせるつもりなど毛頭なかろうし、聞き手を務めた大下氏の筆致に由来するのかもしれないが、とにかく予期せぬところで爆笑の一節に数々出くわすことしきり。

“絶妙の落差”! ぜひ味わってほしい

言わせてもらえば、題名からして(『部屋とYシャツと私』みたいだな)と内心、つぶやきつつページをめくり始めたのが本音だが、たとえば「〈殺すしかない〉/そう思って(中略)男のマンションに行った」だの、「『実は(中略)を殺してもらいたいんです』/私は耳を疑った」だの、読者の首筋に刃先を当てるかのごとき調子の合間に、「(注・保釈中に逃亡した件を指す)私はかくれんぼを続ける必要もないのではないかと思っていた」のあとに一言「親にも心配をかけていたし」。

この絶妙の落差。ぜひ味わってほしい。

後に深い関わりを持つある男との初対面もすごい。なじみの店に顔を出すと知人が手錠で拘束の姿。それをナイフで少しずつ刺していたのがその男。「印象的といえば、これほど印象的な出会いもなかなかないのではないか」。当たり前だよ! いやはや、突っ込む側も試される。

(居島一平/芸人)