森永卓郎 (C)週刊実話Web
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金融緩和転換期に日本は…!? ~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

昨年の12月22日、2024年度予算の政府案が閣議決定された。「歳入に占める国債の割合は30%を超えており、コロナ前の平時に戻ったとは言えない。今後の利払い費の増加を考えれば、さらなる財政改革が必要」というのが大手メディアの評価だ。


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確かに一般会計歳出は、コロナ前の19年度が101兆円だったのに対して、24年度予算は112兆円と増えている。しかしその間、物価は上がり、税収も猛烈に増えている。財政の状況は、歳出規模ではなく、財政収支でみなければならない。


そこで、24年度予算の基礎的財政収支の赤字をみると、8兆6000億円と、今年度の10兆8000億円と比較して2兆2000億円も赤字幅を縮小しているのだ。それだけではない。コロナ前の19年度当初予算の基礎的財政収支赤字は9兆5000億円だったから、来年度予算の赤字はそれを下回っている。コロナ前を取り戻すどころか16年ぶりの赤字の小ささになっているのだ。岸田政権が、財務省の打ち出した超緊縮財政を忠実に履行したのが、来年度予算の正体なのだ。


さらに今回の予算案は、財政危機を煽るために偽装されている可能性が高い。税収が前年比0.2%、1680億円しか増えていないからだ。政府経済見通しでは、来年度の名目GDPは3.0%成長となる予定だ。税収弾性値を3と仮定すると、6兆2496億円税収は増えるはずだ。1人3万円の所得税の定額減税に必要となる2兆5000億円を差し引いたとしても、税収の伸びが1680億円というのは、あり得ない数字なのだ。

財政・金融引き締めに

もう一つの偽装は、国債費だ。来年度予算で歳出増の原因となっているのが、金利上昇だ。国債費は前年度比で1.7兆円増の27兆円に達している。長期金利の想定金利が1.1%から1.7%に引き上げられたからだ。現在の10年国債の利回りは、0.6%だから、この想定はあまりに高すぎる。今後、日銀が強烈な金融引き締めに出なければ、そんなことは起きないだろう。

ただ、はっきりしたことは、岸田政権が来年度は猛烈な財政引き締めと金融引き締めに出ようとしているということだ。


実は、24年の日本経済の成長に関して、主要なエコノミストは、揃ってマイナス成長を予測している。米国経済は減速し、歴史的な金融引き締めが終結し、24年は一転して3回の利下げが見込まれている。中国経済も不動産バブルの崩壊で景気が悪化し、上海総合指数はこの半年で1割ほど値を下げている。欧州はいまのところ好調だが、ユーロ高で景気悪化が懸念されており、24年中には金融緩和に転換せざるを得ない見通しだ。


世界経済が悪化し、財政金融緩和に向かうなか、日本だけが財政金融の緊縮に向かったら、経済は恐慌状態に陥ってしまう。


それを防ぐ唯一のシナリオは、岸田総理が退陣することだ。政治とカネの問題で、政治不信が高まるなか、岸田退陣はあり得ない話ではない。実は、亀井静香氏が興味深い予言をしている。次の自民党総裁は、上川陽子外務大臣か高市早苗経済安全保障担当大臣になるというのだ。奇しくも緊縮派の代表と緩和派の代表だ。亀井氏の予想が当たるかどうか分からないが、日本経済の明暗が大きく分かれる選択が目の前にきているのかもしれない。