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“バーチャル修学旅行”急増!? 旅行会社の生き残り戦略~企業経済深層レポート

バーチャル修学旅行”急増!?旅行会社の生き残り戦略
バーチャル修学旅行”急増!?旅行会社の生き残り戦略(画像)Africa Studio / Shutterstock

新型コロナウイルスの感染拡大によって旅行需要が激減し、大手旅行会社は軒並み壊滅的な打撃を受けた。今後、開催が不透明な東京五輪・パラリンピックの動向次第では、傷口がさらに拡大することも懸念される。

観光業界の関係者が大手旅行各社の実情を解説する。

「近畿日本ツーリストを傘下に持つKNT-CTホールディングスが、2月9日に発表した2020年4~12月期連結決算は、最終損益が216億円の赤字(前年同期は25億円の黒字)となり、昨年12月末時点で債務超過に陥った。そのため、21年3月期連結業績予想を下方修正し、最終赤字は370億円になると見込んでいる」

国内最大手のJTBも昨年11月、今年度の経常損益が過去最大の1000億円の赤字となる見通しを公表している。

また、エイチ・アイ・エス(以下HIS)も20年10月期連結決算で最終損益250億3700万円と、上場以来初の赤字に転落することになった。

もちろん、各社のこの大幅な売り上げ減と赤字の背景に、コロナ禍という未曾有の事態があるのは間違いない。しかし、ある経営コンサルタントは他の要因を指摘する。

「旅行予約で年々ネット比率が高まる中、大手旅行会社は十分なネット対応に踏み切っていなかった。長年にわたり店舗重点主義でやってきたツケが、昨年来のコロナで一気に噴き出し、各社を追い詰めたのです」

旅行業界は右肩上がりを続けてきたように見えるが、ここ数年、主要旅行会社の取扱額は、ほぼ横ばいだという。新型コロナの影響を受けるまで、多少のアップダウンはあるものの5兆数千億円台で推移してきた。

来店客からネット利用者重視へシフト

「ここ数年の傾向は、ネット旅行販売額が年々急増している点です。経産省の統計によれば、13年に1兆5000億円前後だったネット予約は、19年には約3兆9000億円にまで伸張している」(同)

こうした傾向を受け、大手旅行会社も手をこまねいていたわけではない。

JTBは海外からの観光客を当て込み、米ネット予約大手のブッキング・ホールディングス系企業と提携し、国内向けではネットが主体の『るるぶトラベル』と事業展開している。

しかし、全体としてはネットより、従来の店舗販売に力を入れてきた。経済アナリストが解説する。

「昔から大手旅行会社は、直接営業で高齢者や団体客などに複数案を打診し、顧客が納得いくまで懇切丁寧に接客することを重んじてきた。また、従業員の生活と雇用を守る観点からも、店舗営業に比重が置かれていました」

そんな中でコロナ禍に直面し、店舗中心型の大手旅行会社は早急な対応を迫られることになった。

「売り上げ急減に加え、そもそも顧客が来店を控えるようになった。そのため、高額な店舗維持費や顧客対応のために確保する社員の人件費が、大きな負担となっている」(同)

大手旅行会社は生き残りをかけて、抜本的な方向転換を迫られている。

JTBは21年度中に、全国460店舗のうち115店舗を閉鎖し、従業員約6500人を削減する。さらに、22年度の新卒採用もストップして、従業員年俸の3割削減案を模索している。前出の観光業界関係者が言う。

「JTBはデジタル化を一層進め、ネット利用者を徹底して取り込む方向に舵を切った」

飲食など新規事業を模索

例えば、JTBの大きな収益源だった小中高の修学旅行は、コロナ禍で中止を余儀なくされているが、実際に現地へ行くのではなく、デジタル化での実施に力を入れている。

つまり、VRを使ったバーチャル修学旅行で、立ち上げからすでに約60校と契約し、さらに増加傾向にあるという。

「京都・奈良コースではVRを駆使して、清水寺からの飛び降り、大仏の手のひらでのジャンプなどが楽しめる。いわば仮想世界での修学旅行だが、生徒たちには実際の旅行より面白いと好評を博している」(同)

KNTは22年3月末までに、全国138店舗を3分の1に縮小し、大幅なコスト削減を計画している。

「約700万人の会員を持つクラブツーリズム事業を拡大し、趣味に合わせたテーマ型の旅や講座でサブスク(月極めや年極めの継続課金)を導入。将来的に100万人の有料会員獲得を目指すことで、収益の安定化を図ろうとしています」(同)

HISは旅行以外の新規事業として、飲食、農業、ホテルや旅館の再生などに取り組んでいる。昨年10月には埼玉県川越市でそば屋を開店させたが、さらに約100店舗を展開する計画だ。

大手旅行会社は新規事業を開拓しつつ、東京五輪が開催できるか、GoToトラベルが再開されるか、各方面に神経をとがらせながら営業戦略を練っている。コロナ禍でのサバイバル戦争は、これからが本番だ。

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