監督:ヴィム・ヴェンダース
出演/出演:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和
配給/ビターズ・エンド
東京・渋谷の公衆トイレをクリエイターが作り変える「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトのことは耳にしていました。個室に入って鍵をかけると、透明ガラスの壁がサッと曇りガラスに変わるトイレが話題になっていましたから。今、渋谷区内に17カ所あり、それぞれ安藤忠雄や隈研吾など錚々たる面々が個性的なトイレを設計していて、毎日3回の清掃で美観を保っているそうです。そんな特集を朝のニュース番組で見た後、すぐに本作を見ました。
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まるでドキュメンタリーのように、トイレ清掃員の日々が静かに展開します。夜明け前に起きて身支度をし、担当するトイレまで軽自動車で向かい、車の中では古い洋楽のカセットテープを流す。到着するなり粛々と夜中に捨てられたゴミを拾い、便座の裏の溝まで丁寧に清掃する。仕事終わりに行きつけの居酒屋で一杯飲み、夜は煎餅布団に寝そべって文庫本を読みながら寝落ちする。繰り返される「作法」のような日々を眺めているだけで、おのれの荒んだ心が清々しく浄化されていくようです。
ただ、淡々と日常を描く手法の映画は決して珍しくありません。本作には小さな「波風」となる事件は起きるものの、いささか弱いとも感じられ、星一つ減らしました。にしても、まるで修行僧のようなシンプルライフ。それが決して成れの果ての底辺生活ではなく、社会を下支えする仕事を自ら選び取った、誇り高き生活であることはジワッと伝わってきます。
世界に誇れる美意識
この達観を同年代の我々はかくありたしと感情移入するものの、日本を代表する「イケおぢ」役所広司が演じるからこそで、ズルいよなぁとも思うわけです。
私自身、公衆トイレを割によく利用する方ですが、先日、文京区の小石川にある小さな公園のトイレに入ったところ、これが驚くほど清掃が行き届いていました。海外だと、たとえ有料でもとんでもなく汚れている場所も多いですからね。日本が世界に誇れる美意識が「清潔」であることは間違いないかもしれません。
トイレの清潔っぷりといえば、私めも人後に落ちないと自負しております。自宅のトイレはもちろん、宿泊先のホテルのユニットバス一体型のトイレも、便座を綺麗にするのはもちろん、床に落ちた髪の毛に至るまで念入りに掃除します。旅行にマイ「コロコロ」を持参して掃除する人って、なかなかいないんじゃないかなぁ。
ま、抜け毛の量が尋常じゃないもので、申し訳ないってこともあるんですけどね。
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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