新語・流行語「増税メガネ」の選外は気遣い~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
ユーキャン新語・流行語大賞の表彰式が12月1日に行われた。年間大賞は、大方の予想通り阪神タイガース岡田監督の「アレ」だった。プロ野球ファンにとっては納得の結果とも言えるが、プロ野球に興味のない国民にとっては意味が分からなかっただろう。もっとも、今回、年間大賞以上に話題を集めたのは、ノミネート語30のなかに「増税メガネ」が入らなかったことだ。
私は、増税メガネが大賞を取るべきだったと考えている。岸田総理がそう呼ばれるのを嫌い、増税イメージを払拭しようと減税にこだわったため、経済対策がおかしくなってしまったからだ。
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国民生活が困窮しているのは、いまの物価高のせいだというのに、減税が始まるのが来年6月からになるという。それでは経済対策の効果がない。たった一つの言葉が、一国の経済を動かすというのは、前代未聞の事件と言えるのではないか。だから増税メガネこそ、大賞にふさわしいと私は思うのだ。
表彰式で、選考委員のやくみつる氏は増税メガネを選出しなかった理由を明かした。「自分の知人にも子供の頃の弱視のせいで、今も分厚いメガネをかけている人がいる」としたうえで、「忖度をしたのではなくて気遣いといいますか、そういう風に解釈をしてくれればと思う」と話した。つまり、増税圧力をかけ続ける財務省に忖度をしたのではなく、差別を助長するような言葉を選択したくなかったというのだ。
もちろん、やく氏の主張には一理ある。NPO法人あなたのいばしょ理事長の大空幸星氏も「メガネは医療機器であるため、それを使わざるを得ない人の存在を考えたら、増税メガネという言葉は適切な表現ではない」と言っている。ただ、差別を助長する言葉かどうかは、程度問題だ。そうしたことにあまりに神経を使い過ぎると、風刺が一切できなくなってしまう。
「どんなふうに呼ばれても構わない」
私はちょうど20年前に「年収300万円時代」で流行語大賞のトップテンに選ばれた。そのときの大賞は、野中広務元官房長官の「毒まんじゅう」だった。いずれも弱肉強食政策を進める小泉純一郎政権を皮肉ったものだった。ちなみに授賞式で、私の席は野中氏の隣だった。私は野中氏にこう聞いた。「野中さんのところにも、小泉さんから毒まんじゅうは届いたんですか」。それに対して野中氏は「ああ来たよ。副総理兼地方創生担当大臣にしてやるというんだ」と答えた。
私が一番気になっているのは、新語流行語大賞からそうした権力への批判が少なくなってきていることだ。どうしても「増税メガネ」が差別用語だというのであれば、手前味噌だが「ザイム真理教」でもよかったし、「五公五民」でもよかったはずだ。ちなみに私は『現代用語の基礎知識』の執筆者の一人でもあるのだが、今年の注目語として大きく取り上げたのは、五公五民だった。
岸田総理は11月2日の記者会見時、SNSなどで「増税メガネ」と呼ばれていることへの感想を問われ、「どんなふうに呼ばれても構わない」と答えたうえで、「やるべきだと自分が信じることを決断し実行していく」と強調した。
そこまでの覚悟があるのだったら、流行語大賞の授賞式で、「私が増税メガネです」と挨拶すれば、支持率が少しは回復したような気がするのだ。
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