東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長が、ようやく橋本聖子氏に決まった。みなさんご承知の通り、ここに来るまでには、前会長の森喜朗氏の後任をめぐり、ひと悶着あった。
2月12日、森氏が辞任会見をした。その当日に後任となることが有力視されていた川淵三郎氏が、会長就任を辞退する意向を申し出た。公式には発表されていないが、政府が密室での会長人事に難色を示したからだと報じられている。
私は川淵氏が最適と考えていた。1つの理由は、蔑視発言が繰り返されるリスクがないからだ。女性蔑視発言が問題視されたが、森氏が蔑視しているのは女性だけではない。謝罪会見で質問した男性記者に、「どうせ面白おかしく書きたいだけだろう」と逆ギレしたことからも分かるように、森氏は誰に対しても基本的に上から目線なのだ。
川淵氏はそうではない。私は川淵氏とラジオ番組などで何回も話をしたことがある。日本サッカー協会の会長をしていたときも、自身を会長とは呼ばせずに、「キャプテン」と称して同じ目線で話をしてくれた。
もう1つの理由は、強いリーダーシップを持っていることだ。Jリーグ発足だけでなく、内紛続きだったバスケットボール界をまとめ上げ、Bリーグを発足させた手腕は高く評価される。オリンピック開幕まで半年を切り、課題が山積する中で、経験の少ないリーダーが実務部隊を指揮することは難しい。
それでは、政府はなぜ川淵氏を拒否したのだろうか。表向きの理由は、透明な手続きを経て後任を決めなければならないというものだが、それは詭弁である。
森氏の辞任に関して国会で問われた菅義偉総理は、「政府に会長人事の権限はなく、組織委員会が決めること」と、同委員会の独立性を主張していたが、その舌の根も乾かぬうちに政府は川淵氏の梯子を外している。これこそ密室だ。
再延期が最も望ましい選択
政府は、川淵氏の会長就任が相当に嫌だったのだろう。その理由に思い当たることがある。
川淵氏は森氏から後継指名を受けた後、記者からの問いかけに「会長は東京オリンピック開催の可否について判断しなければならない」と答えた。森氏の時代は「開催の可否を検討するのではなく、開催のためにどうするのかを検討する」という立場だった。
もちろん客観的には、川淵氏のほうが正しい。新型コロナの状況次第でオリンピックが開催できるか、まだ分からないからだ。
さらに、川淵氏は記者の問いかけに「観客がいなくてオリンピック、日本でやる値打ちあるの。海外でやるのと同じ」とも話している。無観客開催で、テレビで見るだけなら、日本でやる意味がないという見立ても、その通りだ。
そうした極めて常識的な主張をする川淵氏を引きずり下ろしたということは、裏を返せば、政府は無観客でもオリンピックを開催する決意を固めているということだろう。
IOC(国際オリンピック委員会)は、収入の7割をテレビ放映権料が占めているから、無観客でもオリンピックを開催したい。国内でオリンピック利権を持つ人たちも、事情はIOCとほとんど同じだ。
一方で、無観客でも世界から選手団を集めれば、東京で新型コロナのクラスターが発生する可能性が高い。オリンピックは、開催国の国民の支持があって初めて成功するものだ。
ところが、IOCと日本政府には、日本国民がどうしたらオリンピックを楽しめるのかという視点がまったくない。来年に再延期するというのが、最も望ましい選択なのではないか。
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