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日本の半導体産業大逆転の可能性とは~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎
森永卓郎 (C)週刊実話Web

今年度の補正予算案が可決・成立した。国会審議では、政府が打ち出した所得税・住民税減税に議論が集中したが、それは来年度予算に反映されるものだ。

補正予算で大きなウエートを占めているのは、電気代や燃料への補助金継続と半導体、次世代通信、宇宙開発などの次世代産業育成のための経産省絡みの予算だった。特に、半導体は特定半導体基金に6322億円、従来型半導体の安定供給確保支援基金に2948億円など、半導体支援策全体として、特別会計および既存基金の活用と合わせて2兆円規模の予算が投じられることになっている。これだけの巨費が投じられるにもかかわらず、国会での議論は深まらなかった。


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具体的な半導体支援策としては、昨年8月に設立されたラピダスと台湾のTSMCが建設を進める熊本工場への支援がメインとなる。ラピダスは、2027年に世界最先端の回路幅2ナノ(ナノは10億分の1)の半導体の量産を目指す。しかし、80年代後半に世界シェア50%以上だった日本の半導体産業は、いまではシェア10%を切っている。

その理由は、技術面での出遅れだ。現状、日本メーカーが製造できる半導体は40ナノで、3ナノが主戦場である世界トップメーカーからは、技術的に10年は遅れていると指摘されている。しかも3ナノの半導体であっても、開発から量産までには3年かかるとされており、たった4年で世界最先端まで技術的なジャンプアップをすることは、どう考えても不可能だろう。

以前にも失敗している…

また日立製作所で長年、半導体事業に携わった湯之上隆氏は、著書『半導体有事』(文春新書)で、TSMCの熊本工場は、せっかく建てても作るものがなくなるかもしれないと主張している。熊本工場が製造を予定しているパソコンやスマートフォンのCPUとして使われるロジック半導体の不足は、21年前半で解消していて、いま不足しているパワー&アナログ半導体を熊本工場が作ることはできないからだ。

加えてTSMCの熊本工場に関しては、環境破壊の懸念も提起されている。半導体産業が使用する膨大な水を地下水で賄うと、地域の水源を枯渇させる心配があるうえに、洗浄で出る有害物質で、環境が汚染される懸念があるからだ。

今回の日の丸半導体の大逆転政策は、とんでもない失敗に終わる可能性が高いと私は考えている。これまで二度にわたる国策会社の大失敗があったからだ。

一つはソニー、東芝、日立の中小型液晶ディスプレイ事業を統合して12年に発足したジャパンディスプレイだ。政府系の産業革新機構が主導して誕生したが、発足以来一度も黒字になったことがなく、日本最大のゾンビ企業とも呼ばれている。もう一つは、09年に公的資金で救済したエルピーダメモリだ。こちらは、12年に経営破たんし、米国企業に買収されてしまった。経産省が主導する産業政策の失敗で、国民の大切な資金がドブに捨てられたのだ。

来年度の所得税・住民税減税を含む今回の経済対策の総額は17兆円にも及んでいる。ドブに捨てることになる可能性の高い予算を使うくらいなら、それを消費税減税に振り向ければ、1年間、消費税全体を5%に引き下げ、食料品の消費税をゼロにできる。にもかかわらず、与党に加えて、日本維新の会も国民民主党も補正予算に賛成したのである。

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