島田洋七 (C)週刊実話Web 
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奇跡的に熊本の民宿でお会いした八名信夫さん~島田洋七『お笑い“がばい”交遊録』

佐賀に戻ってきたのは俺が51歳の頃です。友達から「熊本県の天草に行ったことある? ないなら行ってみたらいいよ。ものすごくキレイよ」と教えてもらったんです。天草には漁師さんが経営する民宿があるとのことで、そこを予約し嫁さんと佐賀から4時間ほどかけて向かいました。


その民宿は部屋が10畳ほどあり、広くてキレイでね。ちょうど10歳くらい年上の女将さんに挨拶すると、「徳永さんて、洋七さんでしたか?」。本名で予約するからわからないんでしょう。そうしたら漁師をしているご主人を呼んで「漫才で日本一になったツービートの洋七さん」と紹介するから、「ツービートちゃうよ。B&Bですよ」とツッコむと、「どっちも英語っぽくて一緒。それにしても芸能人が泊まるのは初めて」と喜んでくれましたね。


【関連】武勇伝に事欠かない月亭可朝さん~島田洋七『お笑い“がばい”交遊録』 ほか夕食の時間になると、宿のご主人が獲ってきた伊勢エビをはじめ豪華な魚が並んでいました。東京で伊勢エビを頼んだら1万円は超えますよ。その民宿は食事込みで8000円。嫁さんと「安いし、美味しいな」と話していると、女将さんが色紙を持った近所のおばちゃんを2人連れてきたんです。人に見られながらだと食べにくいけど、それでもおばちゃんたちを笑かしながら食べましたよ。気がつくと、おばちゃんが7人に増えていましたね。結局、おばちゃんたちと写真を撮ってサインしましたよ。

テレビで悪い役する人…

しばらくすると、宿の従業員が「隣の部屋のお客様が洋七さんと知り合いだから会いたいとおっしゃっています」「なんちゅう人?」「テレビで悪い役する人です」。テレビで悪い役する人と言われても誰だかよくわからないでしょ。部屋に現れたのは、悪役商会の八名信夫さんだったんです。

「どないしました?」「俺は一人旅が好きでね」「なんで俺だってわかったんですか?」「民宿だと隣の部屋の声がよく聞こえるでしょ。ずっと笑い声が聞こえるし、これは絶対に洋七くんだと思ったんだよ。30分くらい洋七くんの話を聞きながら笑っていたよ」。


八名さんは仕事がないときはぷらっと一人旅に出るらしいんです。また、その民宿は「8000円で魚がたくさん出るからビックリした」ともおっしゃっていましたね。そんな会話を続けていると、おばちゃんたちが「この人はテレビで悪いことばかりしてる人」と言うから、「それは仕事やって。良い役と悪い役の人がドラマではおるやろ。八名さんは悪役の人たちのリーダー」と説明しましたよ。


八名さんが「この前、テレビで佐賀に引っ越したとニュースになってたから今度遊びに行きますよ」。そうしたらおばちゃんが「佐賀行っても、なんも見るとこなかばい」と言うから俺が「(八名さんの今度遊びに行くは)社交辞令みたいなもんや」と返したんです。「あんた社交辞令で言ったの? 男が一度口にしたら行かんと。嘘ついたらダメよ」と八名さんに説教するからビックリですよ。


八名さんのご自宅の住所を聞いて、後日、佐賀の海苔を送ったんです。そうしたらものすごくキレイな字で書かれた礼状が届きました。テレビ局ですれ違ったことはあったけど、まさか天草の民宿で会うなんて奇跡中の奇跡ですね。
島田洋七 1950年広島県生まれ。漫才コンビ『B&B』として80年代の漫才ブームの先駆者となる。著書『佐賀のがばいばあちゃん』は国内販売でシリーズ1000万部超。現在はタレントとしての活動の傍ら、講演・執筆活動にも精力的に取り組んでいる。