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「第4の肉」大豆ミートに大手メーカーが続々参戦の背景~企業経済深層レポート

第4の肉として脚光を浴びる“大豆”の真髄
第4の肉として脚光を浴びる“大豆”の真髄(画像)Ermak Oksana / Shutterstock

今年に入って小泉進次郎環境大臣が、「日本人に親しみ深い大豆が、新たな形で広がるのはビジネスチャンスだ」と述べるなど、国が後押しの姿勢を示したことで、にわかに「大豆ミート」をはじめとする植物肉(プラントベースミート)が注目を浴びている。

また、民間の調査会社が、国内の植物肉市場を2020年の346億円から10年後には約2.2倍の780億円に伸びると予測するなど、その成長度も増している。

こうした背景を食品メーカー関係者が詳述する。

「植物肉が注目される理由はいくつかありますが、真っ先に挙げられるのは欧米でのヘルシー志向の高まり。そして2つ目は、将来的に現在の食肉供給だけでは、先進国でさえ深刻な食糧不足に陥り、餓死者が続出するという危機感です」

農水省の資料統計によると、20年の世界人口は約76億人、これが50年には100億人に達する。そうなると食肉は圧倒的に不足し、世界の至るところで食糧不足に陥る。日本も決して例外ではなく、開発途上国では食肉争奪戦争が起きかねないという。

「食肉不足に対応するためさらに家畜を増やせば、今度は飼料用穀物や水が不足することになる。仮に家畜を増やせても、そのゲップによるメタンガスの大量増加で地球温暖化が進み、環境破壊に拍車がかかる。こうした背景から、植物肉が牛、豚、鶏に続く〝第4の肉〟として脚光を浴びています」(同・関係者)

最近、国内外で肉や魚を食べない「ベジタリアン」や「ビーガン」が増加しており、こうした風潮も大豆ミートなどの植物肉には追い風となっている。飲食業関係者が解説する。

「一般的なベジタリアンは肉や魚を食べませんが、ビーガンは乳製品や卵、はちみつも口にしない完全菜食者です。今や米国では2000万人近くがビーガンで、その人たちに植物肉を提供する店も急増している。また、メーカーも盛んにベジタリアン、ビーガン向けの商品を作り、スーパーなどで販売しています」

手間がかからないレトルトタイプが人気

では、実際に植物肉の製造、販売に関わる国内メーカーの動きはどうなのか。筆頭は他の食品メーカーに先んじ、15年から大豆ミートの製造に着手しているマルコメ(長野市)だ。フードアナリストが言う。

「現在、マルコメが販売している大豆ミートは乾燥タイプ、冷凍タイプ、レトルトタイプと3種あるが、特に人気なのはレトルト。手間がかからないので、仕事と家庭を持つ多忙な女性に好評です。コロナの影響で健康意識が高まり、マルコメの大豆ミート商品は20年4~9月で計画比150%と、大きく売り上げを伸ばしている。長期保存が利くことで、保存食としても見直されています」

大手食品加工メーカーの伊藤ハム(西宮市)は、昨春に発売した大豆ミート使用の「まるでお肉!」シリーズが好調だ。

「伊藤ハムは19年から業務用の大豆ミートを手がけているが、昨春に初めて家庭用商品を売り出した。他のメーカーがあまり取り組んでいない『やわらかカツ』や『メンチカツ』といったフライ系のラインナップが特徴で、売り上げは目標の2倍で推移しており、かなり順調だという」(前出の食品メーカー関係者)

日本最大の米菓メーカー、亀田製菓(新潟市)も植物肉市場に参入している。

「昨秋に大豆を使った『おゆるしジャーキー』や『おゆるしチキンジャーキー』という新商品を発売した。大豆ミートが、コレステロールなし、低脂質、高たんぱく、植物繊維も豊富で健康や美容にもいい〝ギルドフリー(罪悪感のない)食材〟なので、『おゆるし』というネーミングになったそうです。亀田は米菓以外の食品事業を強化するため、今後も植物肉を使った商品を積極的に展開する方針だという」(同・関係者)

気になるのは“肉に代われる味”かどうか…

各食品メーカーとも将来を見据え、大豆ミート商品の開発に余念がないようだ。しかし、われわれ消費者からすれば、環境問題やヘルシーさも大事だが、肉に代われる味かどうかが気になるところである。

「確かに以前の大豆ミートはパサパサして加工も難しく、どうしても大豆臭さが抜けなかった。しかし、現在は各社とも独自の技術開発が実り、肉の食感やうま味に限りなく近づいたことで、その成果が市場を押し上げています」(前出のフードアナリスト)

論より証拠とも言えるのが、話題の1人焼肉チェーン『焼肉ライク』(東京)の動向だ。昨年暮れに大豆が主原料のフェイクミートを日本初で試みたところ、ヘルシーさもあって女性を中心に大人気となり、国内49全店舗への拡大を決めた。

植物肉の関連商品は、各ハンバーガー店や大手のカフェチェーンにも広がっており、すでに定番として売り上げに貢献している。

イギリスのバークレイズ銀行は、世界の植物肉や培養肉(肉細胞を人工的に培養した肉)を含む人工肉市場が、30年には15兆円に拡大すると予測している。日本はやっと緒に就いたばかりだが、今後は15兆円市場にどこまで食い込めるかが注目される。

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