(画像)sanctumlyfe/Shutterstock
(画像)sanctumlyfe/Shutterstock

小道具として購入した水槽で古代魚を飼育~第15回『放送作家の半世(反省)記』

いわゆるギョーカイ内、特に昭和のテレビ界には、欲望が服を着て歩いているようなプロデューサー、ディレクターがたくさんいた。ここからしばらくは、そんな人物たちについて触れていきたいと思う。


まず今回は常軌を逸した〝熱帯魚好き〟として、他局にもその名が轟いていたフジテレビ・A氏のエピソードを紹介したい。今でこそ他局や動画配信会社の制作部門に、人材の流失が止まらないフジテレビだが、バブル期にはどこよりも積極的に中途採用を行っていた。また、テレビ局員ならではの高給取りになれるチャンスをつかむため、とりわけテレビCM制作会社からの応募が引きも切らなかったそうだ。


【関連】『イカ天』で飛躍した相原勇さんの素顔~第14回『放送作家の半世(反省)記』 ほか

このA氏も有名なCM制作会社からの転身組で、映像美には誰よりもこだわる優秀なディレクターだった。しかし、当時のフジテレビは視聴率王者として栄華を極めていた半面、制作部門は内部での縄張り意識が出演者を萎縮させるほど強く、そんな雰囲気になじめなかったA氏には、制作部門からコンテンツ事業や販売コンテンツを制作する部門への異動辞令が下った。


ところが、そんなA氏にとって異動先の新天地こそが、真に望んだ環境だったのだ。まず初めに、A氏には販売コンテンツ(VHSビデオ)の制作が命じられた。それは某人気タレントが海外の観光地を巡り、現地の美しい風景や絶品グルメを堪能する旅行記のような内容だった。

レンタルではなく実際に購入して…

すると、A氏はロケ地を選定する第1回目の会議から、渡航先を米国のニューヨークと主張して頑なに譲らない。バブル期に日本企業が金に物を言わせ、同地中心部の物件を買いあさったせいで、日本人のロケには非協力的との声も上がったが、最終的にはディレクターとしてのA氏の主張が通り、ロケ隊はニューヨークへと旅立った。

酒を飲めない体質のA氏は酒席でトラブルを起こすこともなく、現地のロケは順調に進み、残る撮影はお洒落なバーで高級ワインを嗜むシーンのみとなった。ここでA氏は現地コーディネーターに、なぜか〝小道具〟として全長4メートルほどのガラス水槽をはじめ、中を飾るアクアリウムのセットを発注。しかも、レンタルではなく実際に購入し、ロケ終了後に船便で日本に配送するように指示を出したというではないか。


そんな大がかりな小道具など海外ロケでは聞いたことがないし、これらをレンタルするだけでも、保険代を入れて日本円で100万円近くかかる。そもそもタレントがワインを嗜むシーンに、そんな水族館みたいな水槽を必要とする正当な理由もない。しかし、A氏の本当の狙いは、日本に水槽が到着した後で判明する。


何とA氏は、制作予算から小道具として購入したにもかかわらず、まるで私物のように水槽を自宅に設置していたのだ。そして、体長70〜80センチにまで成長する古代魚のアロワナを飼育し始めたのである。いくらバブル期でも全長4メートルの水槽となれば、日本国内では特注するしかない。常識を大きく逸脱する水槽はさすがに値が張り、日本への運搬費を加えると500万円近い出費になっていた。


そこまでしてA氏は何をしたかったのか? それは他局の〝熱帯魚仲間〟を自宅に集め、アロワナが悠々と泳ぐ姿を見せ付けること、つまり、ただ自慢したかっただけのようだ。もちろん、このことが発覚した後、A氏はきっちり弁済に追われていたが…。