蝶野正洋 (C)週刊実話Web 
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蝶野正洋『黒の履歴書』〜日本の労働生産性の低さを見直す

IMF(国際通貨基金)の予測によると、2023年度の名目GDP(国内総生産)ランキングで日本がドイツに抜かれ、世界4位に転落するという。


今までアメリカ、中国に次ぐ世界第3位の経済大国だった日本の没落が、いよいよデータとして明らかになったわけだ。俺の妻のマルティーナはドイツ出身だから、蝶野家の力関係でいうと、もともとドイツのほうが上なんだけどな(笑)。


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世界的にもドイツに抜かれた日本の影響力は、今後、下がっていく一方だといわれている。原因はいくつかあるが、俺は日本の「労働時間=報酬」という考え方の影響が大きいと感じる。


昔ながらの企業では、効率的に成果を出しても給料は変わらず、逆に時間が余ったせいで、他の人より多く仕事を回されてしまうケースが少なくない。そうすると、本来は5時間でできる仕事も6時間に延ばしてやったほうが、楽だし実入りがいい。だから日本の生産性が低い(日本生産性本部が発表している2022年度版『労働生産性の国際比較』によると、経済協力開発機構に加盟している38カ国中、日本の労働生産性は27位、ドイツは9位)のも当然なんだよ。


その点で、ドイツはしっかりしている。無駄なく良質なものを作り上げる気質があるし、労働の成果に対してきちんと評価、管理されていることが多い。それに、マイスター制度(専門的な技術を持つ最高峰の職人「マイスター」の育成を支援する制度)が機能しているから、人材の育成ができていて、仕事や技術の継承もうまくいっている。

資格を持っていても時給は変わらない

例えばマルティーナは、若いときにホテルのコンシェルジュになるための専門学校に通っていた。俺と出会ったときの彼女はレストランでアルバイトをしていたんだけど、学校で接客マナーやテーブルウェアの並べ方を習っているし、ソムリエなんかの資格も持っているから、時給が普通のウエートレスの倍ぐらいあったんだよ。日本のウエートレスはアルバイトだと、資格を持っていたとしても時給が変わらないところがほとんどじゃないか。こうした日本的なシステムや考え方が、経済的な成長を鈍化させていると思う。

それに、日本はスパッと改革ができていない。デジタル化を進めている一方で古い慣習を捨てきれない企業も多く、いつまで経っても移行できず、逆に負担ばかりが増えているケースが少なくないんだよ。


例えば、経理なんて今はペーパーレス化が進んでいる。レシートをスマホのカメラで読み込むだけで仕訳までしてくれて、自動的に帳簿ができてしまう。今までだったらこれは税理士に頼まないと難しかったが、実質、彼らに頼まなくてもできてしまうんだよ。新しいシステムを取り入れるなら、古い世代のやり方を切り捨てればいい。だけど、それができないんだよ。


個人の感想で言うと、40〜50代くらいの中間層の世代に「労働時間=報酬」という考え方が根強いと感じる。日本の生産性を高めるには、もはやこの世代を切り捨てるしかないんだよ。だけど、現実的にはそうもいかないから、この世代が引退するまで待つしかない。


20年後、今の効率重視の若者が中心となれば、日本の名目GDPは上がるんじゃないか。
蝶野正洋 1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。