
中国・李前首相の急死で“天安門事件”再燃!? 国民の不満が当時と酷似…
中国の李克強前首相が68歳で死去したが、その死をめぐり謎が深まっている。死因は心臓発作というのが中国当局の発表だ。習近平国家主席と確執があった同氏が、引退からわずか7カ月後に急死したことには疑念の声も多い。
習政権下で崩壊の兆しを見せ始めた経済への不満が経済通だった李氏の追悼と相まって、「天安門事件」(1989年)のような大規模デモに発展しないか、当局は最大限の警戒体制を敷いている。
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李氏は10月26日、上海市内のホテルにあるプールで泳いでいたところ、心臓発作を起こし「全力の救命措置」にもかかわらず、翌27日午前0時10分(日本時間同1時10分)に死去した。
これが中国当局の発表内容だ。
だが、不可解な点が多いという。中国に詳しいジャーナリストがこう語る。
「李前首相が搬送されたのは、救急病院ではなく中医(漢方)の病院だったようです。李氏は以前、心臓の冠動脈バイパス手術を受けていたともいわれていますが、68歳での急死については早すぎると疑われています。中国の指導者は、現役当時はもちろん、引退後も最高水準の医療や健康管理を受けており、総じて長生きで、引退後も政治力を持つ長老が多いからです」
温家宝元首相は現在81歳、朱鎔基元首相は95歳。胡錦濤前国家主席は80歳だ。過去の指導者も、毛沢東は82歳で死去するまで権勢を振るった。江沢民元国家主席96歳、鄧小平元国家主席は92歳まで長生きした。
名門の北京大学出身の李氏は、共産党のエリート青年組織、共産主義青年団(共青団)で頭角を現し、2013年に首相に就任した。当初は経済運営全般を取り仕切るとされ、安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」になぞらえて「リコノミクス」と呼ばれたこともあった。
ところが、習氏が「1強体制」になり、経済についても直接判断を下すようになったことで、李氏は立場を失っていった。今年3月に習氏が異例の3期目に入ったのと対照的に、李氏は引退を余儀なくされたのだ。
それから7カ月で急死した李氏の告別式は11月2日、厳戒態勢の敷かれた北京市内で行われた。各地で半旗が掲げられたが、追悼の場には治安当局が動員され、監視を強化。李氏が倒れたという上海のホテルは営業停止となり、入り口付近では公安関係者がパトカーに乗り込んで威圧した。
当時と状況は共通している
また、現地での報道は死去の一報後は限定され、SNSでは李氏に関連する話題のコメント欄が閉ざされるなどタブー状態となったが、当局がここまでピリピリしているのには理由がある。中国では政治指導者の追悼が反政府運動につながった歴史があるからだ。その端的な例が89年の「天安門事件」だ。同事件では学生らが北京の天安門広場に集まり民主化を求める抗議運動を行ったが、これを人民解放軍が弾圧したことで中国は国際的な非難を浴びた。中国のネットではいまだに武力弾圧を行った6月4日を示す「64」などがNGワードになっているが、この事件も政治指導者の死去が原因の一端だった。
「天安門事件が起きたきっかけの一つが、胡耀邦元総書記が死去したことでした。中国の民主化に積極的だった胡氏を追悼する動きが、政府批判に発展していったというわけです。実は、76年に周恩来首相が死去した際にも天安門広場で当時の共産党実力者に対し、人民の不満が爆発したことがありました。現在の習指導部にとっては、同じ事態が繰り返されることへの懸念があるのです」(前出のジャーナリスト)
これらの大規模な抗議行動は、当時の政権への不満が背景にあったが、現在も状況は共通している。
習近平体制の経済運営は、中国の枠組みを超えて海外で活躍するアリババグループなどの企業を締め上げたり、汚職などの腐敗を徹底的に取り締まるなど、自由な経済活動とは正反対の方向性を見せてきた。
その結果、不動産バブルが崩壊し、かつては世界的な規模に発展していた中国恒大集団や碧桂園といった不動産グループがいずれも破綻寸前に追い込まれた。同時に若者の失業率も高止まりし、人民の不満は日増しに高まっているのだ。
実際、昨年11月には厳格な「ゼロコロナ」政策に反発した各地の大学生が、白い紙を掲げて当局に抗議する「白紙革命」と呼ばれる運動を繰り広げたほど。蓄積した不満は、次第に爆発寸前の様相を呈しているのである。
中国経済を分析するシンクタンクのエコノミストはこう指摘する。
「李氏を切り捨てた習主席の経済運営が失敗だったことは、誰の目にも明らかです。政治的にも覇権主義を強めて米国と対立し、半導体関連の制裁を受けているため、今後の成長エンジンも見当たらない状態です。そうした中で、経済通で改革派だった李氏の業績を褒めたたえることは、現在の習体制を批判することの裏返しだというわけです。追悼運動を当局が抑え込めず李氏が自由と改革の象徴のような存在になることを、習指導部が極めて危険だと考えていることは間違いありません」
歴史は繰り返すといわれるが、二度あることは三度ある?
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