
令和となってはや3年目を迎えた。昭和が遠くなり、田中角栄を知らない世代も増えてきている。
だが、昭和を生きた者たちにとって、角栄は力強かった政治家として、懐かしささえ覚える存在。「闇将軍」「金権政治の権化」などと批判されたが、やはり不世出の首相であったと、今になって改めて思う。
『田中角栄 上司の心得』(幻冬舎/1300円+税)は、角栄の言行から人としての懐の深さ、巧みな交渉力、人を育てる術などを浮き彫りにしていく。「部下に花を持たせる達人」「手柄や力をひけらかさない」「借り物ではなく、自分の言葉で説得する」など、要するにこの御仁、やはり飛び切りの漢(おとこ)だった。
しかも、「心配するな、オレに任せろ」と断言する豪快さ。そして、その言葉を実行に移すからこそ、多くの人間が田中についてきたことが伝わってくる。
田中角栄のような指導者が求められる時代
タイトルにある「上司の心得」とは、そうした上司が今は少ない、いや絶滅危惧種であることを、逆説的に言い表している。その上司とは、むろん現在の日本のリーダーたる政府与党の面々にも当てはまる。
コロナ禍で先が見えない時代、求められるのは角栄のような指導者ではないか、読後感は率直にそう思わざるを得ない内容だ。
著者は角栄研究の第一人者として知られる政治評論家の小林吉弥氏。歴代総理ら実力派政治家たちの姿から紐解いたリーダー論・組織論には定評があるだけに、読み応えのある1冊となっている。
(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表
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