岸田総理は10月20日に、税収増を国民に還元するための方策を検討するよう与党幹部に指示した。ただ、すでに概要は固まっていて、住民税非課税世帯への定額給付に加えて、所得税の定額減税を1年に限って実施する方向だ。
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具体的な金額の詰めはこれからだが、昨年度の税収が前年比で4兆円増えたので、予算総額はその程度が基準になる見込みだ。そして、与党幹部の頭にある所得税減税のイメージは、98年に橋本龍太郎内閣が実施した特別減税だろう。このときは年間3万8000円の所得税の定額減税を行い、予算規模は2.8兆円だった。片や、今年3月に物価高対策として住民税非課税世帯に一律3万円を配ったときの予算が2.2兆円だから、所得税減税と合わせて5兆円となる。
岸田総理の打ち出した所得税減税は、消費税減税と比べると、かなりの問題がある。第一は、物価高対策にならないことだ。消費税減税であれば、税率引き下げと同時に物価が下がるから、完全な物価抑制効果がある。一方、所得税減税は、所得を増やすので、需給がひっ迫して物価をむしろ押し上げる。
第二は、実施まで時間がかかることだ。来年度の税制改正を行った後、給料の源泉徴収額が変わるのは、来年半ばになってしまうだろう。第三は、一時的な減税は貯蓄に回ることが多く、消費を拡大しない。そして第四は、減税にエアポケットが発生することだ。
年間の所得税が3万8000円を超えるのは、専業主婦の妻がいる世帯で年収320万円、独身者の場合で、240万円だ。それ以下の年収の世帯は、3万8000円の定額減税をフルには受けられないことになる。
国の赤字は減っている
こうしたことを考えると物価高対策としては、所得税減税よりも消費税減税のほうが、はるかに効果が高いのだが、消費税減税の話は、与党幹部から一切出てこない。消費税減税を嫌がる財務省への忖度だろう。
そして、その態度は大手メディアも同じだ。それどころか、大手新聞は減税そのものにも疑問を投げかけている。10月21日の日本経済新聞は一面トップで、「所得減税遠のく財政再建」というタイトルで、「ガソリンや電気への補助金に加えてバラマキ政策が続けば財政再建も遠のく」と、減税自体に反対する態度を鮮明にした。
それは朝日新聞も同じだ。10月20日朝刊の社説は、「過去3年、国の税収が物価上昇などの影響で過去最高を更新してきたのは事実だが、収支を見ると赤字がコロナ前より大幅に拡大し、借金頼みに拍車がかかっている。巨額の財政出動を繰り返した結果、歳入増を上回る規模で歳出が膨らんだためだ」と書いている。
朝日新聞は、統計を見ているのだろうか。コロナ前の2019年度の基礎的財政収支の赤字は13.9兆円だった。今年度予算の基礎的財政収支の赤字は、予算ベースで10.8兆円だ。コロナ前より大幅に赤字は減っているのだ。
赤字がコロナ前より大幅に拡大したというのは完全な事実誤認だ。しかも今年度は予算ベースなので、税収が見積もりより増えたり、予算に不用額が出ると、財政収支はさらに改善する。また、政府の抱える借金は資産をカウントしたネットベースで、通貨発行益を考慮するとほぼゼロになっている。借金もなくて財政赤字もないのに、新聞はいつまで財政破たんを煽るのか。
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